℃Reviewレーザーアブレーションによる高精細伸縮性電子デバイス松久 直司*N. Matsuhisa*東京大学先端科学技術研究センター 准教授 ででくくだだささいい ウェアラブルデバイスによるパーソナルヘルスケアは、高度な予防医療や遠隔医療を実現する。これはCovid19などの感染症や後期高齢化の進行により医療資源の枯渇が進む社会において非常に重要である。これまでにApple watchなどが商用化されたが、手首などに装着部位が限られ、取得できる生体情報の種類も質も非常に限定的であった。薄いゴムシートのような柔らかい電子デバイスは、自由曲面に湿布やタイツのように高い追従性を示すため、体全体に長時間装着しても違和感なく生体情報を取得できる次世代ウェアラブルデバイスとしての応用が期待されている。この実現のために近年、有機高分子を用いた伸縮性半導体が発明され、非伸縮性の半導体材料に匹敵する電気特性を示すことが分かった。 しかしながら、これら伸縮性電子材料を高解像度にパターニングすることは非常に難しい問題とされていた。これは、伸縮性電子デバイスの基材として用いられるゴム基材は熱や有機溶剤によって大きく膨張・膨潤しまうため、フォトリソグラフィなどの既存技術を用いることができないからであった。 筆者らは新規な伸縮性導電性高分子材料を開発し、レーザーアブレーション法を用いて10 µmもの高解像度でパターニングできることを実証した。さらに開発した電極材料を用いて伸縮性トランジスタ、タッチセンサアレイ、エレクトロクロミックディスプレイを実現した。 次に伸縮性PEDOT:PSS溶液を準備するために、PEDOT:PSS水溶液(Haereus, PH1000)1 mLに対して様々な塩の水溶液(40 mg/mL)0.25 mLとフッ素界面活性剤(Capstone, FS30)10 µLを混合した。ここで塩はPEDOT:PSSのモフォロジーに影響を与えて伸長性と写写真真位位置置 削削除除ししなないい1.研究の目的と背景 2.伸縮性導電性高分子材料の開発 2.1 伸縮性PEDOT:PSS導電膜の成膜 まず、評価用の基材としてSEBS(旭化成, H1062)および熱可塑性ポリウレタン(TPU) (日本ミラクトラン, P22MBRNAT)を有機溶剤(SEBSにはシクロヘキサン、TPUにはテトラヒドロフランを使用)に溶かしたものをガラス基材上にドロップキャストし、ペトリディッシュをかぶせて一晩乾燥させた。 導電性を向上させることができる。本研究では、Lithium Bis(trifluoromethanesulfonyl)imide (LiTFSI) 、Lithium Bis(pentafluoroethanesulfonyl)imide (LiBETI)、4-(3-ethyl-1-imidazolio)-1-butanesulfonate (IonE)の3種類の塩を用いた。PEDOT:PSSおよび用いた塩の構造式を図1に示す。フッ素界面活性剤は、伸縮性PEDOT:PSS水溶液の基材への濡れ性を改善するために加えている。準備した水溶液を、酸素プラズマ処理で表面を改質したSEBS基材およびTPU基材上に1000 rpm 1 minの条件でスピンコートし、11010 minの条件で乾燥して成膜した。 図1 PEDOT:PSSと添加した塩の構造式。 2.2 伸縮性PEDOT:PSSの評価 成膜された伸縮性PEDOT:PSSの導電性と伸長性を評価するために、2cm長さ5mm幅の大きさにナイフで切り出したものを用いた。導電性の評価のために、1cmの長さのところに液体金属GaInを塗布し、x軸ステージで伸長をかけながら抵抗をマルチメータで測定した。導電膜の厚みを同じ条件でガラス基板上に成膜したものを触針式段差計で計測し、導電率を計算した。伸長性の評価は、基材をバイスに固定し、伸長をかけながら光学式顕微鏡(Leica, DM 4 M)で観察し、導電膜にクラックが入り始める歪をクラック歪と定義した。 さらに伸縮性PEDOT:PSS薄膜の物性評価を進めた。薄膜の結晶性評価のために、添加した塩の異なる伸縮性PEDOT:PSS薄膜をシリコン基板上に成膜し、SPRing-8で微小角入射広角X線散乱(GIWAXS)法で計測を行った。薄膜のHardnessは、PET基材上に成膜した薄膜についてナノインデンターを用いて評価を行った。また、薄膜の松久 直司 - 92 -レーザーアブレーションによる 高精細伸縮性電子デバイス
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