FORM TECH REVIEW_vol33
9/108

*名古屋工業大学 大学院つくり領域 教授今回は大きな塑性変形を材料に与える加工方法の一つとして鍛造に関する研究成果を集めた。一次加工としての材料を創るプロセス、二次成形の機械製品づくりで材料を使うプロセスでも鍛造は役立つ技術といえる。一次成形では、鋳造された巨大な素材を十分に圧下して、改質と均質で扱いやすい形状や寸法に整える。この鍛造は、圧延加工や押出し加工とともに、後工程で使いやすい素形材を安定して供給する重要な役割を果たす。量的にも経済的にも鉄をベースにする炭素鋼や合金鋼は素形材の主流で、これまでに蓄積された多くの情報と経験は、他の材料を圧倒する。同時に軽量化や電気特性などから非鉄合金や耐熱合金、あるいは炭素繊維強化プラスチックなども重要度を増している。グローバル化が進み、国際間の競争や安全保障にも絡んで、従来の合金鋼でも成分の見直しなどに迫られ、実験的な試行錯誤では、開発速度の点で世界とは太刀打ちでない事態になっている。個別のシミュレーションからデータベースを作成し、機械学習の助けも借りることが進んでいる。さらに統合した材料ゲノムの発想や重要性については特別講演(柳本)で確認できる。すでに材料と情報の両方の技術を合わせ、桁違いの探索速度で、必要な材料特性を探り当てる技術は、電池材料などの先端分野だけなく構造材や機能材にも拡張されてきた。材料工学側では、材料内部の現象のモデル化と適切な解析方法によって、物理現象の定量的なシミュレーション技術が向上している。たとえば配合成分の材料ごとに、鍛造などの大変形を前提にして、ひずみ、ひずみ速度、温度、時間によって、静的あるいは動的な金属学的な変化(硬化、回復、再結晶、粒成長、析出物)や冷却時の変態などのシミュレーション技術も盛んに研究されている。そのための基礎となるリアルな実験は貴重で、付加価値の高いチタン合金をジェットエンジンにおいて疲労耐久性に関する取組み事例(御手洗)を今回取り上げた。国家プロジェクトへの関連や進展もみられ、本財団の貢献は高い。本良)も説明いただくことにした。若い研究者には本助成をまた、航空機エンジン用チタン合金の組織予測モデル構築(松本洋)の例では、大量のシミュレーションと機械学習を組合わせたマテリアルズ インフォーマティクスの手法も取り入れられている。これらの前提は単純な圧縮や引張より、せん断大変形では主軸が刻々と変化し結果的に格段に大きな塑性変形となる。鍛造品の内部でも見られ、変形の特質からせん断加工による超微細粒の生成(鳥塚)は参考になる。二次成形では徐々に熱間鍛造から冷間鍛造に移行する製品も増え、製品強度の要求から温間鍛造も開発された。ここでは主に寸法や形状の精度を高めてネットシェイプが求められ、精密鍛造が進展した。よりサステナブルな方法や条件の検討が続いている。二次成形の特徴は、工程ごとの変形や温度の分布の変化も活用され、熱間や温間の温度域での鍛造は、制御鍛造として所望の強度特性を製品に付与できる点で画期的である。また、冷間域での加工硬化は局部や表面の硬化による強度向上に貢献している。同じ寸法や機能を経済的に量産品で実現するために、型寿命の向上や製品精度向上には鍛造荷重の低減が最も効果がある。材料の機能性向上には、ひずみの与え方も重要な要素となる可能性も感じる。そこで材料を使うプロセスとして、力学的な切り口からねじりや振動を付加した鍛造(松通じて、新しい工法の研究にも取り組んでほしい。最後に、設計者と生産技術とのさらなる交流の必要性を付記する。新製品はヒトを助けて便利になるために発想・企画される。その前提に、全てのユーザーが安全で安心な機械製品を長く使用できるように設計され、製造しなくてはならない。設計者は機能と構造を考え、形状や寸法を決め、材料や加工方法を選択する。塑性加工なら材料の特性向上ができる。材料名だけを選択する古い設計から、材料プロセスをもっと理解し、活用する設計者による未来の製品が量産されることを期待する。- 7 -説苑北村 憲彦*K. Kitamura鍛造による、材料を創るプロセスと材料を使うプロセス

元のページ  ../index.html#9

このブックを見る