図6 (a)作製した銀細線のI-V特性,(b)レーザーパワーおよび走査速度に対する銀細線の抵抗率依存性 ろ,照射パワー5.0 mWよりも低い抵抗率を示した.熱アニールは,線幅を太くすることなく抵抗率を向上する方法として有効な手法であることが示唆された.これは,析出した銀粒子を被覆している界面活性剤であるポリマーが加熱により揮発し,銀粒子同士が結合したためと考えられる.このときの最小抵抗率は20.1 µΩcmであった. これらの結果より,本研究技術は従来の金属メッシュ透明導電性膜に対し,同等の抵抗率を示し,従来技術よりも細い金属細線が作製されることを示した.本技術は,レーザー照射により任意パターンを形成できるマスクレスパターニング技術であるため,多品種少量生産に対する低コスト化が期待される. これら基礎データをもとに,金属メッシュ透明導電性膜を作製した.金属メッシュ構造の光透過率は,金属細線の充填割合に依存する.すなわち,メッシュ間隔と線幅とに依存する.メッシュ間隔が大きいほど,線幅が狭いほど透過率は向上する.一方,導電性膜としてのシート抵抗値は大きくなるため,金属メッシュ透明導電性膜において透過率とシート抵抗値はトレードオフの関係にある.従って,透過率が高くかつシート抵抗値の低い金属メッシュ透明導電性膜の開発が求められる. 図7は,本技術により作製した銀メッシュ透明導電性膜の光学顕微鏡像および可視光透過率を示す.メッシュ間隔は20 µm, 30 µm, 40 µmとした.銀のメッシュパターンが図5 レーザーパワーおよび走査速度に対する銀細線の線幅依存性 レーザーパワー1.4 mW以下の条件にてサブミクロン線幅の銀細線が作製されることが分かった.さらに,レーザーパワー1.0 mW,走査速度100 µm/secにて銀細線の最小線幅0.8 µmを達成した.走査速度に対して線幅はほぼ一定の値を示した.一般的に走査速度が高くなるほど,単位時間単位面積あたりに与えられるフォトン数が少なくなり銀析出量が減少するため,線幅は細くなると考えられるが,走査速度1〜100 µm/secの範囲内において変化は見受けられなかった.レーザーパワー5.0 mWのとき,高速化に伴って若干の線幅減少が見受けられることから,100 µm/sec以上の走査速度条件において線幅が減少することが考えられる.また,レーザーパワーが高いほど線幅は太くなった.これは,レーザーパワーが高いほど単位時間あたりに与えられるフォトン数が多くなり,銀析出量が増加するため,線幅が太くなったと考えられる.本照射条件下においてはレーザーパワーに対して顕著な線幅変化が見受けられた.これらの結果から,銀の析出確率,銀の成長速度に対する励起フォトン数,および走査速度が銀の線幅に寄与していると考えられる. 図6(a)は,作製した銀細線の電流電圧特性を示す.電流電圧特性は,線形比例を示し,その傾きから抵抗値は1.28 kΩと算出された.作製した銀細線の抵抗値と線幅,厚さ,長さから,抵抗率を求めた.図6(b)は,レーザーパワーおよび走査速度に対する抵抗率依存性を示す.レーザーパワーが高いほど,走査速度が低いほど抵抗率が低いことが分かった.抵抗率であるため,線幅等,全て規格化された値であるが,パワーが高く,線幅が太い方が,抵抗率そのものも低くなることが示唆された.また,線幅は走査速度に対してほぼ一定であったが,抵抗率は走査速度の増大に伴い,高くなることが分かった.このことから,走査速度が高くなると,析出した銀粒子の凝集密度が低下し,銀粒子同士のコネクティビティが低下したと考えられる.したがって,導電性の観点では,低速かつ高強度であるほど良いが,生産性や狭線化の観点では逆の傾向であるため,これらはトレードオフの関係にあるといえる. 図6(b)より,レーザーパワー2.0 mWにて作製された銀細線を300度2時間の条件にて熱アニール処理したとこ 4.金属メッシュ透明導電性膜の開発 - 82 -
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