FORM TECH REVIEW_vol33
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ででくくだだささいい 近年,タッチパネル技術の急速な発展に伴い,大型化・高精細化が求められ,新たな透明導電性膜の開発が重要な課題となっている.従来,透明導電性膜には酸化インジウムスズ(ITO)膜が広く用いられてきた.ITOは抵抗率が約1.5 ×10-6 Ω∙m,可視光透過率はおよそ85%であり,導電性と透明性を兼ね備える.大型化に伴い抵抗値が増大することから,現在,導電性と透明性の両立の限界に直面している.また,ITOは無機結晶膜であるため,フレキシブル化が困難である.これらの課題を克服する手法として,金属メッシュ透明導電性膜が注目されている. 金属メッシュ透明導電性膜は,低抵抗かつ高い透過率を示し,大型タッチパネルやフレキシブルデバイスへの適用が進められている.マスクリソグラフィ法だけでなく,インクジェット印刷法やグラビアオフセット印刷法など様々なパターニング技術が提案,開発されている[1,2]. 本研究では,レーザー集光照射を用いた光還元反応に着目し,金属イオンを含有した透明ポリイミドに対してレーザー光を集光照射することにより,金属を還元析出させるパターニング技術を開発した(図1).本技術を応用し,マスクレスの直接描画により,今まで不可能であった線幅1 µm以下の金属メッシュ透明導電性膜を開発する.本研究はハイパルスエネルギー照射のアブレーションによる金属加工技術と異なり,わずか数mWのCWレーザー照射にて光還元反応によりボトムアップ的に金属をパターニングする技術である.マスクレスなレーザー直接描画法により,ITO透明電極よりも優れた抵抗率および透過率を示す金属メッシュ透明導電性膜の開発を目的とする. レーザー光還元法は,金属イオンを導入した溶液やポリマーへのレーザー集光照射により焦点域のみ金属イオンを還元し,金属粒子を析出させる技術である.レーザー走査に応じたパターニングが可能である.1987年,ピッツバーグ大学のAhern氏らは硝酸銀水溶液(光還元剤)へのレーザー照射により銀粒子が形成されることを実証した[3].さらに,2002年,チャルマース工科大学のE. J. Bjerneld氏らは,銀イオンの供給源となる硝酸銀と還元剤であるクエン酸ナトリウムを混合した硝酸銀溶液に波長514.5 nmのCWレーザー光を開口数N.A.=0.55の対物レンズを用写写真真位位置置 削削除除ししなないい1.研究の目的と背景 いて集光照射し,大きさ1.3 µm程度の銀粒子析出を実証した[4].2005年にボストン大学のBaldacchini氏らは硝酸銀とポリビニルピロリドンとエタノールとを混合した光還元剤を開発した[5].加熱によりフィルム化した光還元剤にフェムト秒パルスレーザーを集光照射し,銀細線を作製した.ポリビニルピロリドンは還元剤とキャッピング剤の役割を果たす.レーザー照射によりポリビニルピロリドンから電子が放出され,銀イオンを還元する.その後,ポリビニルピロリドンは還元された銀ナノ粒子表面に吸着し,銀ナノ粒子の成長を抑制する.2008年,横浜国立大学の丸尾氏らはBaldacchini氏らと同様の光還元剤にフェムト秒パルスレーザーを照射し,銀細線を作製した[6].作製された銀細線の線幅は1.2 µm程度であった.レーザーパワーと走査速度を最適化することにより,サブミクロンスケールまで微細化された銀細線が作製されることも示し ている.さらに丸尾氏らは硝酸銀濃度を調製し,作製される銀細線の抵抗率の硝酸銀濃度依存性を示した.硝酸銀濃度7.3 wt%の光還元剤にて作製された銀細線の電流電圧特 図1 レーザー光還元法による金属メッシュ透明導電性膜作製技術 Reviewレーザー集光照射光還元反応による超微細金属メッシュ透明導電性膜の開発小野 篤史*A. Ono*静岡大学電子工学研究所 教授キーワード:透明電極,光還元反応,金属導線 小野 篤史 - 80 -レーザー集光照射光還元反応による超微細金属メッシュ透明導電性膜の開発

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