FORM TECH REVIEW_vol33
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比田井 洋史 2.フェムト秒レーザとナノ秒レーザ併用による切断 ででくくだだささいい ダイヤモンドはキャリア移動度,絶縁耐圧,熱伝導率が高いため[1-3],シリコンやシリコンカーバイドに代わる,高周波,高出力かつ高耐圧の電力用半導体材料への応用が期待されている[4].これに伴い,近年化学気相成長(CVD)法による大径単結晶ダイヤモンドの合成が報告されている[5].CVD法では,半導体として利用可能な低欠陥のダイヤモンド単結晶を,1インチ程度の大きさに100 µm/h 以上の速度で合成することが可能である[6-7]. CVDダイヤモンドの半導体応用における次の課題は,単一の単結晶ダイヤモンドから厚さ数百ミクロン程度のウェハを切り出すスライス工程である.しかし,ダイヤモンドは硬度が高く,脆性材料であるため,半導体ウェハのように薄く広い形状に加工することは困難である.ダイヤモンドの切断加工法として一般的なイオンビーム加工やダイヤモンド表面からのレーザ切断加工[8-10]は,ビームを溝底部に到達させるために入口として十分な幅の切り溝を必要とするため,少ない切りしろで深い加工を行うことが困難である.また,ダイヤモンド砥粒を使用した研削などの機械的加工では,工具幅程度の切り溝が生じ,長い加工時間を要する. そこで,一般的なダイヤモンド加工とは異なるスライシング手法として,杢野らが以下のような手法を提唱している[11].まず,土台となるダイヤモンド種結晶上に剥離面上部からイオン注入を行い,表面から数ミクロン内側に内部改質層を形成する.次に,内部改質層上部にエピタキシャル成長によりダイヤモンドを堆積させる.最後に,内部改質層をアニーリングしグラファイトに変質させた後に,グラファイトのみを電解エッチングによって選択的に溶解させ,ダイヤモンドウェハを種結晶から分離する.この手法での切り溝としての損失は1.6-4.8 µm程度であり,材料効率に優れている. 一方,近年のダイヤモンドへ内部の導波路形成の研究として,高密度に集光した超短パルスレーザの照射により,焦点近傍のみでダイヤモンドがグラファイト化することが報告されている[12-15].この加工方法では,加工部手前の材料を透過させてビームを照射するため,レーザアブレーション加工のように狭い切り溝から底部にビームを照射する必要がなく,理論上はアスペクト比に制限がない.写写真真位位置置 削削除除ししなないい1.緒言 (c)剥離 Reviewレーザ照射によるダイヤモンド内部のグラファイト化と切断への応用比田井 洋史*H. Hidai*千葉大学大学院工学研究院 機械工学コース 教授 表1 レーザ照射条件 (i)FCPA µJewel D-1000 1041 nm 550 fs 4.3 mm 100 kHz スライシング (ⅱ) Surelite SLⅢ-10 532 nm 3~5 ns 9.5 mm 10 Hz 同様の研究はガラスなどの透明材料の加工においても行われている[16].本研究では,レーザによるダイヤモンドの内部変質加工を応用した,ダイヤモンドのスライス加工法を提案する. レーザ走査による変質層形成(図図11(a),(b))に,各加工条件が及ぼす影響を調べ,得られた変質層の形状の評価を行った. 2.1 実験方法 幅1 mmの高温高圧ダイヤモンドに対し,赤外域のフェムト秒パルスレーザによる内部加工を行った.レーザの仕様を表表11(i)に示す.また実験装置の概略を図図22に示す.集光レンズにはNA = 0.5の対物レンズを用いた.発振器から照射されたレーザ光を出力調整した後,対物レンズを用いて集光し,電動ステージ上のダイヤモンド内部に照射した.レーザ焦点を図図11(b)のように,レーザの光軸方向に沿って奥から手前へ向かって直線状に走査する操作を,等型番 波長 パルス幅 ビーム径 繰り返し周波数 図1 レーザ照射によるグラファイト化を利用したDiamond Processed area (a)変質層の形成 - 74 -Graphite layer Laser beam (b)レーザ走査 レーザ照射によるダイヤモンド内部の グラファイト化と切断への応用

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