E 3.ガラスとガラスの微細溶融溶接 このようにレーザ光照射部近傍の現象はダイナミックであるが,高繰り返し条件を用いることで溶融物の飛散がほとんど観察されない穏やかな接合状態が得られる.さらにこの接合部の形状からアンカー効果が期待できることもあり,図図55に示すように,接合部の破断強度は同一箇所へのレーザ光の照射パルス数20程度において50MPa以上と高い接合強度が得られている.本条件ではパルスエネルギー3µJで適切なレーザパルス照射数を用いると85MPa程度と陽極接合に匹敵する高いせん断強度が得られた.パルス繰り返し数に着目するとパルス繰り返し数1MHzは他のパルス繰り返し数と比較して高いせん断強度が得られており,適切なレーザパルス照射数と入熱量により良好な接合継ぎ手が形成されたと考えられる. 図5 せん断強度とレーザパルス照射数 本実験において高いせん断強度が得られたレーザパルス照射数Nは20程度であった.ここれは,パルス繰り返し数1MHzではスポット直径20µm,レーザ光走査速度1.0m/sで得られる値であり,同等のスポット直径ではパルス繰り返し数4MHzにおいてレーザ光走査速度4.0m/sまで増大したときに同等のレーザパルス照射数20が得られる.これは8インチの単結晶Siウェハ全域を7分程度で処理できる速度であり,陽極接合法に匹敵するプロセス速度が期待できる.また,本レーザプロセスは事前,事後加熱等が必要なく,空間選択的な接合が容易である.開発が進むピコ秒パルスレーザのパルス繰り返し数の更なる向上とレーザ光走査速度の高速化がかみ合えば,本手法は高効率,高機能な単結晶Siとガラスの微細接合法として高い可能性を有することが期待できる. 3.1 空間光位相変調器を用いた光学系と観察方法 図図66に本実験で使用した光学系のセットアップを示す.波長1064 nm,パルス幅10 ps,パルス繰り返し数1 MHzのピコ秒パルスレーザ光を液晶タイプのLCOS-SLM (1272×1080 pixels) を用いて変調した.そして,反射された回折光を焦点距離f = 200 mmとf = 100 mmの平凸レンズで構成される1/2結像光学系を通して対物レンズ(開口数NA 0.65)まで伝送し,ホウケイ酸ガラスD263の内部に集光した.形成された溶融領域をレーザ光走査方向または照射方向から光学顕微鏡を用いて観察を行った.また接合時には,厚さ1.1mmのホウケイ酸ガラスに厚さ0.7mmのガラスを上から貼り合わせ,2枚のガラスとの間にオプティカルコンタクト領域を形成し,溶融領域高さの中心がオプティカルコンタクト面に位置するようにレーザ光の焦点位置を調整した. 図6 SLMを用いたレーザ光照射セットアップ 3.2 計算機合成ホログラムを用いた集光性制御 図図77に空間光位相変調器により3点に分岐したレーザ光集光性制御モデルを示す.本研究では,Weighted Gerchberg-Saxton (WGS) 法8) を用いて集光点座標を同一平面上で制御できるCGHを3つ組み合わせることで,レーザ光を各点同一エネルギーとなる3点に分岐した.ここで,ガラス内部で分岐した各集光点間の距離を集光点間距離dwと定義し,dw = 15, 25, 35 µmと変化させたときにおける微細溶接特性に及ぼす影響を評価した. 図7 3点集光に用いたCGHと集光点間距離dw 次に図図88に示すように集光点間距離を15µmに設定した3点集光,および5点集光の2条件で溶融領域形状の制御を試みた. - 70 -
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