た他の応用開拓 例えば、流路内の流速計測は、様々な分野で広く活用されている。特に、マイクロ流体デバイス分野においては、流速の精密制御が重要であり、高精度な流速測定技術が求められる。しかし、微小流路内の複雑な流れを従来のセンサーで高精度に測定することは困難である。そのため、一般的には基準となる粒子を導入し、PIV(粒子画像流速測定)手法を用いて計測が行われる。 本研究では、開発した超薄板ガラスの加工技術と微小空間でのレーザー計測技術を組み合わせることにより、微小流路内における高精度な多点非接触同時流速計測センサーを世界に先駆けて実現した(図5)。 図5に示すように、流体がフラットな板を通過する際、上下の流速差によって圧力差が生じ、板を変形させる揚力(Flift)と、流れ方向の変形を抑制しようとする流体力(Fdrag)が作用する。板の変形量はこれらの力のバランスによって決まり、その変形量を計測することで流速を推定することが可能となる。 筆者らは、フェムト秒レーザー加工技術を用いて、超薄板ガラス(厚さ4 μmおよび10 μm)上にアスペクト比(幅と長さの比)1:5、1:4、1:1.5の複数種類のカンチレバー型センサーを作製し、微小流路内でその特性(検出感度と流速の相関)を検証した(図5(a))。さらに、超薄板ガラスの厚みがセンサーの変形量および感度に与える影響、耐薬性評価、多点計測など、多岐にわたる特性評価を行った(図5(b))。 その結果、4 μm厚の超薄板ガラスカンチレバーセンサーを用いた場合、センシティビティは0.409 V/m−1·sとなり、従来のカンチレバーセンサーと比較して高い感度を実現した(2022年時点)。さらに、本手法を応用し、気体の流速計測にも成功しており、本加工技術を活用したセンサーのさらなる応用展開が期待される。 3.2 超薄板ガラスを用いた高感度カンチレバーセンサーの実現 従来、カンチレバー型センサーの代表例としてAFM(原子間力顕微鏡)が広く使用されている。しかし、AFMカンチレバーはその加工プロセスが複雑であり、計測システムも高価で不透明であるため、生命科学分野での利用にはいくつかの制約があった。一方で、超薄板ガラスは既存の半導体加工技術と高い親和性を持ち、さらに優れた透明性を提供する。この特性を活かしたセンサーは、計測領域の観察を妨げることなく、測定対象の応答や挙動をリアルタイムで観察することが可能であるため、超薄板ガラスを用いたセンサーの需要は今後さらに高まると考えられる。 本研究では、まず超薄板ガラスに140 nm厚のCr-Auひずみゲージ薄膜を積層し、半導体プロセスを利用して櫛形のひずみゲージ薄膜素子を形成した。次に、フェムト秒レーザー加工技術を用いて、指定サイズに微細加工を行った。この結果、計測対象と接触した際に、薄板ガラスの微小な変形や歪みを、ひずみゲージの抵抗値の変化として検出することができるカンチレバーセンサーを開発した(図6 (a), (b))。このセンサーは15 μN/μm(kprevious)の感度を持ち、受精卵の物性の経時変化を測定することができた(図6 (c))[10]。 さらに、FEM(有限要素法)による力学解析ソフトウェアを活用し、カンチレバー形状の最適化を行った。その結果、感度は約800倍向上し、0.19 μN/μm(knew)の高感度を実現した。これにより、一細胞レベルでの細胞骨格による物性変化などの測定も可能となり、AFMに匹敵する感度を持つカンチレバー型センサーの開発に成功した(図6 (d))[11]。 図6. 超薄板ガラスを用いた高感度カンチレバーセンサー。(a) 計測原理。計測対象に接触し、薄板ガラスの微弱な変形をひずみゲージで検出する。 (b) フェムト秒レーザー加工および半導体加工技術により形成した、ひずみゲージ集積型カンチレバーセンサーの写真。 (c) 直径約 800 μm のカエルの受精卵。(d) 直径 10 μm の細胞。(e)センサーの線形特性を調査した結果。(f) 形状最適化前後の感度の違いを示したグラフ。 3.3 超薄板ガラスのフェムト秒レーザー加工を用い超薄板ガラスとその加工手法の確立で、様々な応用が実現可能になった、例えば、超薄板ガラスの任意場所にフェムト秒レーザーを集光して貫通穴を作成することで、基板- 65 -
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