サーの開発 3.本加工手法の応用例 さらに、フェムト秒レーザーの加工面への素早いフォーカシングを実現するため、従来の対物レンズよりも軽量で、微弱な力で駆動できるガラスレンズとレンズアレイを開発した。このレンズに充填された液体または空気に印加する圧力を変化させることで、ミリ秒オーダーで200 μmの焦点深度のフォーカススキャニングを実現した[5, 6, 7]。 結果として、本手法により、超薄板ガラスの切断加工を10 mm/s、切断幅600 nm~[8]、穴あけ加工を100個/s~(穴径600 nm~)[12]、さらに140 nm厚の金属膜の切断加工を10 mm/s、切断幅600 nm~[17]で実現できることが明らかとなった。なお、加工条件はレーザーパルスエネルギー、対物レンズのNA、描画速度によって調整可能である。 図4. 本加工システムの基本構成。(a) 本システムは、フェムト秒レーザー、光学系(対物レンズ)、電動ステージ駆動系、薄板ガラスの把持ジグで構成される。特に、薄板ガラスの把持ジグは、レコーダーテープの把持構造を参考にし、小型化するとともに、薄板ガラスを確実に固定できるように設計されている。(b) 高速切断加工の様子を示しており、600 nm 間隔で精密に切断可能である。(c) 超薄板ガラスへの穴あけ加工の結果を示しており、直径 600 nm の微細な穴を高精度に形成できる。(d) 積層した金属膜の切断を示しており、金属薄膜(厚さ 140 nm)を含む材料に対しても、高速かつ高精度な加工が可能である。 特に、ガラスは硬く脆い硬脆材料であり、その内部に微細な穴を開けることは容易ではない。これは、半導体分野におけるガラスインターポーザ実現において最も大きな課題の一つであり、多くの企業や研究機関で盛んに研究開発が行われている[1]。 ガラス孔の形成方法としては、サンドブラストや超音波ドリルを用いた機械的加工、RIEプラズマなどを用いたエッチング、各種レーザーや放電を用いる方法などが提案されている。形成されるガラス孔のサイズや形状は、それぞれの手法によって異なるが、超薄板ガラスに適用可能な方法はフェムト秒レーザー加工手法に限られる。 本手法のフェムト秒レーザー加工を用いることで極めて効率的な穴あけが可能となり、低コストで超薄板ガラスインターポーザの実現が容易になる。 3.1 超薄板ガラスを用いた高感度な透明な流速セン 超薄板ガラスは、通常のガラスが有する特性に加え、曲げることができるため、広範な領域での応用が期待されることは前述の通りである。特に、微小なMEMSセンサー分野においては、基板材料の厚みや材質、安定性、表面状態の均一性がセンサー性能に大きく影響を与える。 図5. (a)超薄板ガラスを用いた微小流路内の流速計測システムの原理と性能。流速に依存する揚力 (Flift) と流体力 (Fdrag) の作用によって板の変形量が決まる。したがって板の変形量から流速が計測可能である。上記理論をシミュレーションで検証するとともに、アスペクト比(幅と長さの比率)が違う複数パターンを作製し、本センサーの原理を実証した。(b)多点流速計測センサアレイ。微小流路中に、カンチレバーのアレイ(7×2計14個)を加工し、同時多点流速計測を実現した。さらに、超薄板ガラスの厚み(4 μm と 10 μm)から流速計測への影響を調査した。結果として、薄ければ薄いほど感度が良く、4 μm 厚のカンチレバーは 10 μm のそれと比較し、感度は一桁改善された[8, 9]。 - 64 -
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