2.2 超薄板ガラスの加工装置の概要 本研究では、再生増幅型高強度フェムト秒レーザーを用いて、超薄板ガラスの微細加工を行った。これにより、高価な機器の使用、長時間の加工、危険な化学薬品を伴う複雑な工程を簡素化し、半導体デバイス分野でよく使用される切断や貫通、またはガラス表面にある機能性金属膜の切断操作を効率的に実現した。 具体的に、まず、図4(a)に示しているように、薄板ガラスの両端に常にテンション(張力)がかかるよう、2つのピンチローラーで引っ張る構造を持つジグを設計・作製した。これにより、幅4~15 mmの薄板ガラスをしっかりと固定し、平坦性を確保することが可能となった。 図3. 超薄板ガラスの製造と特性。比較的容易に入手できる薄板ガラスの両端を、カーボン製のジグ(治具)に吊り下げて固定する。この状態で真空炉に入れ、加熱することでガラスが延伸され、表面の粗さが2nm以下の優れた平面特性を持つ超薄板ガラスが得られる。 2.実験方法 に破損や不要なひび割れが発生しやすい。このため、柔軟で薄いガラスの加工には適さないという問題がある。 MEMS加工の豊富な実績を持つ筆者らは、従来のMEMS技術を用いて厚さ10 μmの薄板ガラスの加工を試みたが、図2に示すように、試料はどうしても割れてしまう。その原因を顕微鏡観察で調べたところ、MEMS加工によって薄板ガラスに微細なクラックが生じ、それが構造上の弱点となることが明らかになった。このクラックを起点に破断が発生し、柔軟性以前に元の形状すら維持できなくなる。その結果、歩留まりが低く、マイクロメートル精度での自由な加工が困難となるという課題があった。超薄板ガラスの応用を広げるためには、クラックの発生を防ぎ、高密度な微細構造の加工を可能にする新たな技術の開発が求められる。 そこで、本研究では、これまでの申請者の加工経験を活かし、空気中で超薄板ガラスをナノメートルレベルで精密に加工できるよう、従来の加工システムを改良する。さらに、開発した加工手法を活用し、超薄板ガラスの特性を最大限に引き出せる多様な応用技術の開発を進めるとともに、フェムト秒レーザーを用いることで加工手法の高度化を図る。 2.1 超薄板ガラス試料の準備 超薄板ガラスは、薄くなるほどたわみやすくなり、正確な加工が一層困難になる。そのため、より厳しい条件下での加工システムの有用性を評価するには、市販の薄板ガラスよりもさらに薄く、かつ表面の平坦性に優れた超薄板ガラスの作製が必要となる。 従来の超薄板ガラスの製造には、フロート法やオーバーフロー法など、高温でガラスを溶融・引き延ばす手法が用いられてきた。しかし、ガラスを溶融すると、液状ガラスの表面張力(粘性)の影響でシート状を維持することが難しくなり、薄さには限界があった。一般的に、ガラスを薄くする方法として研磨が用いられるが、厚み10 μm以下の超薄板ガラスを研磨するのは容易ではない。 そこで、本研究では、ガラスの軟化点(塑性変形が可能な温度)よりも低い温度でガラスを延伸し、薄膜化する新たな手法を開発した(図3)。この手法では、市販の厚み30 μm、幅30 mmのガラス板の両端をカーボン製の治具(ジグ)に吊り下げ、反対側のホルダーに耐熱金属製の重りを取り付け、張力を調整することでガラスの厚みを制御する。さらに、この状態で真空炉に入れて加熱することでガラスを延伸し、超薄板ガラスを得る。重り(3, 5, 7, 8 g)を変更することで、希望の厚み(10, 4.8, 3.1, 0.9 μm)を持つ薄板ガラスを作製でき、表面粗さ1.7 nm以下の優れた平坦性を有する超薄板ガラスの作製が可能となった。最終的に、市販品を大きく上回る薄さ(900 nm~)の超薄板ガラスを実現することができた(図3)[3, 4]。 - 63 -
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