4.結び 謝 辞 本研究は,公益財団法人天田財団からの一般研究助成参考文献 1) 日本塑性加工学会:マグネシウム加工技術,(2004),16, 係数であり,yは降伏応力である.降伏応力が低下すると,塑性域寸法wの値が大きくなるため,き裂発生前に塑性域が大きく広がることを意味する.したがって破壊に対する 抵抗エネルギーが増大することになり,これは初期材よりも1パス材の吸収エネルギーが31%向上した図12の結果と一致する.今後,多軸鍛造処理を受けたMg合金について,破壊に対する吸収エネルギーや強度の切欠き先端性状依存性について調査するべきと思われる.同図(c)は累積ひずみ = 2.4(3パス)の多軸鍛造材の破面であり,同図(a)および(b)よりも等軸に発達したディンプルが多数観察された.これは多軸鍛造が継続されて高累積ひずみ状態においてランダム方位に発達した微細な結晶粒が増大し,ランダムなすべり変形が最終的に等軸ディンプルを形成するに至ったと考えられる.またこの図中に矢印で示したように,微小ではあるが他のディンプルとは特徴が異なるボイド欠陥が多く観察された.同図(d)は,累積ひずみ = 4.0(5パス)の多軸鍛造材の破面であり,平坦な破面が観察された(他図と比べ,スケールの大きさが異なる).また同図(c)と同様なボイド欠陥が高密度で生成しており,それらのボイドが最終破断に影響を及ぼしていることが示唆される. 三浦と小林は,AZ80Mg合金に本研究と同様な降温多軸鍛造を施し,累積ひずみ = 4.8(6パス)を導入して引張試験にて5%の塑性ひずみが達成されたことを報告しており,これは動的再結晶による結晶方位のランダム化と室温粒界すべりの結果と結論づけている24).図15(d)は微小なディンプルが生じているが,ディンプルの大きさが図7(f)の平均結晶粒径とおおよそ一致し,且つ微小ディンプルのリッジ部が絞られた様相が観察されたことから,室温粒界すべりが多軸鍛造を施したAZ31Mg合金における支配的な変形機構と考えられる. 図16は室温および極低温下での静的三点曲げ試験後の破面観察結果であり,初期材と5パス材の結果をそれぞれ示している.図16(a)と(b)では,両者に加工集合組織および双晶変形が強く関与した破壊形態が観察された。角張った筋状の破面と全体的に凹凸を呈していたため,図12と13における初期材の高いき裂進展抵抗に整合した破面であると考えられる.一方,図16(c)および(d)では、両者ともに微細化した結晶粒の粒界割れに対応した破壊様相となっていた。図16(c)では,浅く丸みを呈したディンプルの最終破断部跡が形成されていたが,図16(d)ではそれが一切観察されず,急激なき裂伝播過程を伴って破断したと考えられる.多軸鍛造によって結晶粒微細化が達成される.き裂が粒界に沿って進展することで,主き裂に偏向のない直線的なき裂進展挙動となると考えられる.故に,図13に示した極低温下における5パス材の低いき裂進展抵抗と図16(d)の破面と良く一致している. 図16 極低温下でのAZ31Mg合金初期材および多軸鍛造材における静的三点曲げ試験後の破面観察結果 本研究では,降温多軸鍛造を施した展伸用AZ31Mg合金の材料組織学的な統一的理解を目指すことを目的として,ミクロ組織的な変容に対する静的負荷速度および衝撃速度を付与したときの室温および極低温下の機械的諸性質について調査した.以下にその結果を述べる. 1)本研究の降温多軸鍛造によって,AZ31Mg合金の結晶粒は微細化した.多軸鍛造は初期材の加工集合組織をスクラップする効果を有する動的再結晶現象を活用したミクロ組織制御法といえる. 2)多軸鍛造はMg合金の室温における機械的性質の向上を促す有効な手法であると考えられる. 3)一方で極低温下におけるMg合金の破壊に対する抵抗は室温のそれに比べ顕著に低下した.これは多軸鍛造を施した場合であっても同様であった. (こ交付番号AF-2016021およびAF-2019025-B3)により実施した研究に基づいていることを付記するとともに,同財団に感謝いたします. コロナ社 2) 沼倉宏:HCP金属・HCP基規則合金中の転位-atomisticな視点から-,まてりあ,Vol.37,(1998),117-124. 3) 加藤健三:金属塑性加工,(1975),228,丸善 4) H. Somekawa, A. Kinoshita and A. Kato:Great Room Temperature Strech Formability of Fine-Grained Mg-Mn Alloy, Mater. Sci. Eng. A, Vol.697, (2017), 217-223. - 43 -
元のページ ../index.html#45