振幅は小さく,室温で0.33MPaであった.一方,図11の拡大図から,0.2%耐力付近のは室温のそれと比較して大きく,3.3MPaであった.他の多軸鍛造材でも,結晶粒径の違いに依らず,セレーション挙動が確認されている.いずれの多軸鍛造材のの差は,極低温下では室温下の約10倍程度大きくなっていることが認められた.これは転位の熱運動が起きにくくなる極低温では, 変形による発熱が転位の熱運動を促すことで大きな変形が生じ,それに伴って生じる大きな応力降伏が影響していると考えられる. 3.3 静的三点曲げ試験結果 図12に,室温下における初期材および多軸鍛造材の静的三点曲げ試験結果を示す.多軸鍛造のパス数が増えるにつれ顕著に最大荷重と降伏荷重が向上していることが認められた.一方4,5パス材では最大荷重に達するまでの変位が低くなった.初期材と多軸鍛造材で比較すると,最大荷重は初期材を基準に1パス材で28%の増加,5パス材では50%増加した.したがって多軸鍛造による結晶粒微細化によって,最大荷重が向上することがわかった.さらに荷重-変位波形を囲む吸収エネルギーをプラニメータで測定し、初期材と多軸鍛造材を比較した結果,初期材と比較して1パス材で31%増加し,5パス材では20%増加した.すべての多軸鍛造材において,初期材よりも高い吸収エネルギーの値を示しており,多軸鍛造による靭性の向上が確認できた.しかしながら,吸収エネルギー値は3パス材で最大を示し,4パス材と5パス材の吸収エネルギーは3パス材よりも低下した.これは最大荷重に達するまでの変位が低くなったためと考えられる.したがってパス数の増加に伴い降伏荷重が増加したため,切欠き先端付近での塑性域に広がりが制限され,局在的な高ひずみ領域が優先的に発生し,それに伴うマイクロクラック等が生成したと予想している.故に本研究の多軸鍛造の一部の加工条件について,切欠き先端付近での塑性拘束と応力集中による早期破断の要因を含んだ破壊挙動を呈するものであったと定性判断できる. 図13は極低温下における静的三点曲げ試験結果を示したものである.その結果,初期材と1パス材を除く多軸鍛造試験片で最大荷重を示した直後に破断し,室温下の荷重-変位挙動と比べて吸収エネルギーの低下が顕著に認められた.すべての試験片において室温下の吸収エネルギーの40%にも満たさなかった.以上により,Mg合金の靭性は試験温度に強く依存することがわかった.さらに極低温下では多軸鍛造による吸収エネルギーの向上効果がほとんどは見られなかった.これは極低温下での最大荷重を示した後のき裂伝播エネルギーが占める割合が著しくに低下したためであると考えられる. 3.4 衝撃三点曲げ試験結果 図14は,各試験温度におけるAZ31Mg合金の初期材と多軸鍛造材(1~3パス材)の衝撃値を示したものである.この結果,多軸鍛造による結晶粒微細化に依存せず,83K図9に極低温下における初期材および多軸鍛造材の応力-ひずみ曲線を示す.室温下での結果(図8)と比較すると,極低温下では延性が著しく低下し,引張強さ,0.2%耐力,ヤング率が増加することがわかった.また最大応力点での破断がすべての多軸鍛造材で確認された. 成田19)はMg合金の低温脆性に関する調査結果から,双晶が高速伝播したリ,すべり変形が生じにくい結晶では,双晶が障害に衝突した際に生じる応力集中をただちに緩和できず,き裂生成に至る場合があると報告している.そもそも, Mg合金の変形に寄与する微視的機構の一つに双晶形成がある20)点と,極低温下において原子の結びつきが強まると,結晶にすべりが生じにくくなり,多軸鍛造処理に依らず延性の低下と引張強さの増加を示したAZ31Mg合金には低温脆性があると考えられる.さらに,極低温下での応力-ひずみ曲線ではすべての試験片においてセレーション挙動が確認された.通常,極低温下における金属や合金の荷重-変位応答においてセレーションがよく確認されている21).図10および図11は初期材に関する室温および極低温下での応力-ひずみ曲線,そして0.2%耐力付近の応力ひずみ応答を拡大したものである。これらの拡大図は,0.2% 耐力の塑性ひずみ点を中心としたひずみ幅2w =0.002の範囲を示している.これらのセレーション挙動は最終的に破断するまで継続する22),23).図10の拡大図から,室温下において0.2%耐力付近のセレーションによる応力降下の 図10 室温下でのAZ31Mg合金初期材における 応力-ひずみ曲線と0.2%耐力付近の拡大図 図11 極低温下でのAZ31Mg合金初期材における 応力-ひずみ曲線と0.2%耐力付近の拡大図 - 41 -
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