図13 引張強さとせん断抵抗の関係 図11 n値とだれ比率の関係 ここで,注目している点は,加工硬化(指数)である.図11にn値とだれ比率の関係を表わす.n値が大きくなるほどだれ比率が大きくなる.加工硬化能が大きいということは,一様変形能が大きく,パンチを押し込むときに,パンチに接する材料が広範囲に変形するためである.微細粒材でだれが極めて少なかったのは,結晶粒の微細化によって加工硬化能の低下が一様変形能を低下させ,変形範囲が減少したためと考えられる. 3.3 破断面粗さとせん断力 図12に示すように,粗大粒材では破面に大きなディンプルが観察されるが,微細粒材では観察されない.その結果,表1に示すように,面粗さRy(最大高さ)は粗大粒材で14m,微細粒材で6mと約1/3となった.0.3Cフェライト+パーライト材は10mであった.微細粒材の加工硬化能が小さいことに起因すると考えられる. 図12 0.02C超微細粒材と粗大粒材の破断面のSEM像 表1 0.02C超微細粒材と粗大粒材および0.3Cフェライト+パーライト材の破断面粗さ 謝 辞 本研究は,公益財団法人天田財団からの一般研究助成に参考文献 この3つの材料の穴抜きの際の抜き荷重,すなわち,せん断抵抗を比較してみると面白い.0.002Cおよび0.02C材はせん断抵抗は,材料の引張強さと直線関係を持つ.しかし,0.3Cフェライト+パーライト材は,同じ引張強さに対してせん断変形抵抗が大きい.これも,加工硬化能の大小に関連すると考えられる. 超微細粒鋼は,その加工硬化能や伸びの小ささが欠点と言われてきたが,せん断(穴抜き)加工では,だれが極めて小さいという特長を持つ. より実施した研究に基づいていることを付記するとともに,同財団に感謝いたします. 1) 鳥塚史郎:ふぇらむ, 10-3, 2005, 188. 2) Torizuka, S., Muramatsu, E., Murty, S.V.S., & Nagai, K., ; Scripta Materialia, 55-8 2006, 751. 3) 鳥塚史郎:まてりあ,45-6, 2006, 438. 4) 鳥塚史郎・村松榮次郎:ふぇらむ, 20-9, 2015, 408 5) 鳥塚史郎・村松榮次郎:塑性と加工, 56-657, 2015, 850 6) 鳥塚史郎・村松榮次郎:ふぇらむ, 24-8, 2019, 518 7) 日本塑性加工学会編:せん断加工, (1992), 8-39, コロナ社. 8) 鳥塚史郎・村松榮次郎・小松隆史・永山真一:塑性と加工, 55-642, 2014, 626. 4.まとめ - 36 -
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