による1000℃における鍛造では,冷却中でも試料内部では1000℃近い温度が一定時間保たれ,鍛造中に導入された歪みが緩和してbi-modal組織を形成した.940℃鍛造においても,25t鍛造材と同様に層状組織は鍛造中に分断されるが,その後の冷却速度が遅いため,分断したβ相の球状化がより進行した. 鍛造材に導入された歪みを調べるために,SEM-EBSDを用いて結晶方位の角度差(KAM)を測定した.試験片を採取する1/2R近傍のKAM値(misorientation angle)を図6に示す.70%鍛造材は黒い線,85%鍛造材は赤い線で示す.黒い実線で示す1000℃70%鍛造材では,歪み速度が遅いほどKAM値が小さい領域が多く,歪み緩和が進行していることがわかる.これは歪み速度が遅いことにより高温に晒される時間が長いことを示唆している.一方,黒点線で示す940℃鍛造材では,逆の傾向を示し,歪み速度が遅いほど,大きなKAM値の割合が大きく,大きな歪みが導入されていた.赤い線で示す1000℃ひずみ速度0.5 /s 85%鍛造は1000℃0.005 /s 70%と同程度のひずみ分布を示し,今回行った鍛造条件の中では,導入されるひずみ量は比較的低い値を示した. 図6 鍛造材の歪み分布 鍛造中の温度分布と歪み分布を塑性加工シミュレーションにより計算した結果を図7に示す.1000℃0.5/s70%鍛造では,鍛造材中央に加工発熱領域が発生しているが(図7 (a)),端部に向かうにつれ温度が低下した.ひずみ速度が遅い1000℃0.005 /s鍛造では, より広い領域で加工発熱による温度上昇が確認された(図7 (c)).鍛造材中央には,高いひずみも導入された(図7 (b), (d)).1000℃0.5/s85%鍛造では,70%鍛造よりも広い範囲で加工発熱が発生し,それに伴いひずみも鍛造材内部により均一に発生した(図7 (e), (f)). 図7の分布図のスケールは,それぞれの条件で見やすいように設定されているため,鍛造条件の違いによる加工発熱量や導入ひずみが明確ではないため,疲労試験に用いる1/2R近傍の温度と相当歪みを読み取り,プロットした図面を図8に示す.図8(a)に示すように鍛造温度によらず加工発熱が観察された.加工発熱量は鍛造温度が低いほど,また歪み速度が速いほど顕著であり,940℃0.5/s鍛造では70℃の発熱が発生した.1000℃0.5/s70%鍛造では1056℃まで温度が上昇しており,TIMETAL834のβ変態温度が1045℃であることから2),場所によってはβ変態温度を超える温度で鍛造していたことになる.鍛造率をより大きくした85%鍛造の加工発熱量は,70%鍛造の時と同程度であった.ただし,図7(e)に示されるように,加工発熱の領域は材料全体に広がる点が異なる. 鍛造中に導入されるひずみについては,図8(b)に示すように,鍛造率が同じ場合(70%)は,鍛造温度, ひずみ速度によりほぼ同程度であったが,鍛造率を増加させると,急激に増加し,2倍程度大きくなり,ひずみは鍛造率により影響を受けることが明らかとなった. 図7 塑性加工シミュレーションによる(a), (c), (e) 温度分布と(b), (d), (f) ひずみ分布. (a), (b) 1000℃0.5 /s, 70%,(c), (d) 1000℃0.005 /s, 70%,(e), (f) 1000℃0.5 /s, 85%. 図8 塑性加工シミュレーションにより計算された1/2R位置の鍛造終了後の(a)温度と(b)歪み 70%鍛造材について,組織観察により得られた歪み分布と比較すると,940℃鍛造では,歪み速度が速い場合に大きな加工発熱が起こるために,歪み緩和がより大きくなり,観察されたひずみ量がより遅いひずみ速度と比較して小さくなったことがわかる.1000℃鍛造では,1000℃が歪み緩和に対して十分な温度であったために,加工発熱の大小に関わらず,歪み速度が遅い場合により長時間高温に晒されることから歪み緩和が大きく生じたと考えられる. - 24 -
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