3.1 変形の制御 冷間鍛造の特徴の一つの特徴として,非切削であるがゆえに鍛流線1)(Fiber flow)が途切れることなく,素形材製品の中に存在していることがある.鍛流線は塑性変形の結果であり,素形材製品の機械的特性である断面内での強度や硬度分布を支配するのであるから,鍛流線の制御も材料プロセス開発の一つの形態であると考えてもよい.鍛流線は,強度分布以外の機械的特性とも関連している.冷間鍛造材の疲労特性を鍛流線と関連付けて論じた研究2)は,この様な事実の一例である. 鍛流線は断面の低倍率でのマクロ組織観察で観察することができ,多くの例をWeb上にて閲覧することができる.FEM解析では,鍛流線は有限要素格子の変形として現れるので,CAEによるデジタル可視化の対象としては最も基本的な対象となっている.一方で,鍛造では多くの工程を経て素形材製品を製造するため,大きな変形が局所的に発生することが多く,FEM解析といった材料の連続性を仮定したモデルでは解析が難しい場合が多かった.このことを解決したのがRemeshing法である.Remeshing法には,節点をある目的関数の下での最適な位置に移動していくr法,内挿関数の次数を上げていくp法,要素を細分化しているh法なども研究されたが,鍛造解析で成功しているのはRezoning法つまり要素を大域的に再分割し,状態量(剛塑性解析の場合には塑性ひずみなど)を引継ぎ,計算を再分割された要素について継続する方法である.この方法での鍛流線あるいは全変形量の可視化には,予めMonitoring格子を定めて置き,このMonitoring格子の位置をRemeshingの度ごとに引き継いでいけばよい. 図2は,1980年代初頭のBattelle Columbus研究所による鍛造解析結果である3).鍛造時の局所的大変形が捉えられていることがわかる.記念すべき第1回の塑性加工国際会議(1st ICTP)で発表されたこの計算手法は,その後世界中に広まり,現在でも利用されている. 3.2 熱処理 冷間鍛造後の半製品には,塑性変形を反映した塑性ひずみと,離型後の応力の再配置の結果生じる残留応力が存在している.その結果得られる素形材製品の機械的特性が要求特性を満足すればそのままで良いし,あるいは調質しないで済む非調質鋼を用いることで機械的特性を満足させる場合もある. 冷間鍛造では熱処理による調質を経て素形材製品を得る場合が多く,多様な熱処理が用いられている.図3は普通鋼について,CCT線図(連続冷却変態線図)上に示した熱処理履歴(温度~時間履歴)と得られる製品の硬度である4),5)(本図は横浜国立大学 梅澤 修教授のご厚意による).熱処理履歴により多様な硬度が得られる.このCCT線図は後述する「材料ゲノム」の一種であり,予ひずみを受けていない普通鋼については図3で十分である.一方で,予ひずみを受ければ,後述する通り変態時の核生成頻度が4.熱間鍛造による材料プロセス 塑性変形の影響を受けるため,CCT線図各相の境界線の位置は微妙に移動するし,合金組成が変化すればCCTの形も,得られる製品の硬度も変わる.ここに熱処理の難しさがあり,目的の多様性と相まって冷間鍛造後の調質・熱処理を複雑なものにしている6). 図2 Rezoningによる鍛造の大変形解析3) 4.1 熱間加工組織制御 図4には,種々の材料プロセスの温度履歴をCCT線図上に記した.厚板圧延を端緒として1970年代から発達した,制御塑性加工(圧延)~制御冷却からなるTMCP(Thermo-Mechanical Control Process)はやがて制御鍛造に発展し,航空機用大型鍛造部品の製造に広く利用されている.塑性加工では素形材製品あるいは半製品への造形が必3.冷間鍛造による材料プロセス - 10 -
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