FORM TECH REVIEW_vol32
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4.液滴除去PLD成膜方法でのアパタイト成膜10mの実験方式と結果 原子、液滴の2種類の大きさの異なるアブレーション粒子の可視化からレーザー照射後の時間とプルームの先端の位置の関係を図9に示す。原子の先端位置と膨張時間の関係にはブラストモデルを利用して近似した9)。図9に示すように圧力上昇に伴い原子は膨張とともに速度低下し、液滴は影響を受けず線形に膨張を行うことが確かめられた。これは成膜物質の比率から考えた図6の加水分解の反応モデルと一致する。 図9 アブレーション粒子の膨張 従来のPLD法の成膜物質のH2Oガス圧依存性、アニール温度依存性ならびにアブレーションプルームの可視化の結果より液滴の付着が成膜物質のアパタイト結晶の比率を下げ、アニール温度の高温度化を必要とする結果が分かった。これまでのPLD法の成膜研究において液滴を排除する方法はいくつか提案されているが、幾何学的に最も単純に排除可能なエクリプス型PLD法10)を用いて成図10 エクリプス法の実験装置 膜を行った。図10に実験装置を示す。この方法はターゲットの照射位置と基板の中心に障害物を設置する。本実験では5 mmの鉄球を中心に設置し行った。名前の通り日食を想定する様な配置にする。アブレーション粒子の内、慣性の大きな液滴は障害物に衝突し基板まで届かない。一方、原子、イオンは圧力の変化により軌道が曲がるため、原子状の粒子だけが障害物をよけ基板に付着させる方式である。ジルコニア基板の加熱はセラミックヒーターで行った。図11に成膜物質の写真(右)と電子顕微鏡写真(左)を示す。干渉縞が生じるほど緻密で液滴がほぼない成膜が達成されている。 図11 成膜物質の写真及び電子顕微鏡写真 この成膜方式で得られた成膜物質のラマンスペクトルを図12に示す。ラマンスペクトルは大きく3つに分けられた。(左)は基板温度350 ℃以下でスペクトル幅の広いアモルファスCaPのラマンスペクトル、(中央)は基板温度360‐370 ℃で左右不対称なラマンスペクトル、(右)は基板温度390 ℃以上で左右対称のスペクトル幅の狭いラマンスペクトルが得られた。(左)、(中央)はガウス分布(右)はローレンツ分布で近似されている。液滴が排除されているため従来型で得られた液滴由来のα-TCPのスペクトルは温度にかかわらず測定されなかった。ラマンスペクトルは360 ℃を境に大きく異なる結果が得られた。Si、Ge、ダイヤモンドなどのナノサイズの微結晶では短波数で不対称になるラマンスペクトルが報告されている11-13) 。図12(中央)のスペクトルはアパタイトのナノ結晶だと考えられる。図12のラマンスペクトルの中心波数、半値全幅をアニーリング温度依存性から示した結果を図13に示す。図のように360 ℃を境に物性が急激に変化していることが分かる。また、360 ℃以上でも温度上昇に伴いスペクトルが狭帯域化している。これは結晶粒界が大きくなることを示している。さらにジルコニア基板とアパタイト結晶の熱膨張係数から高温時に成膜したアパタイト結晶は冷却後、応力によりラマンシフトが発生していることが分かる。この熱膨張係数、アニール温度、成膜の膨張を考慮すると、応力は熱膨張係数とアニール温度と室温の差で決まる。また、高圧力下のアパタイト結晶のラマンスペクトルシフト14)、成膜のような2次元を3次元の応力の関係15)を考慮するとラマンスペクトルの中心は点線のように波数が減少することが予想される。このと- 94 -

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