FORM TECH REVIEW_vol32
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*電気通信大学 大学院情報理工学研究科 教授現代社会は、少子高齢化や環境問題など、これまでに人類が経験してこなかった問題に直面している。全世界の平均で見ると、人口ピラミッドはまだ上向きの三角形に見えるが、先進国などでは釣鐘形や逆三角形状に推移している。特に日本における傾向は顕著であり、現在と未来において予測される人口ピラミッドを見ると、生産年齢人口を18〜65歳までと定義した場合、生産年齢人口の割合は2023年では59%であるが、2050年には47%まで減少すると予測されている。環境問題の点では、1970年頃より地球の気温の上昇は顕著であり、回帰直線を求めると10年間での気温上昇は約0.15℃と見ることができる。地球温暖化は近年の異常気象や砂漠の拡大などの問題を生じさせていると言われており、温暖化抑制は人類にとって至急に実現すべき課題である。これらの少子高齢化や環境問題に取り組むに際して、チューブフォーミングは重要な役割を果たすと期待できる。高齢化社会では、医療を強化する必要があるが、医療器具や医療機器に管材はこれまで以上に使われていくであろう。人体への負荷を低減するためには、生体との親和性のある材料をより小さな寸法に成形する必要がある。地球温暖化対策として、二酸化炭素排出量を抑制するためには輸送機器の軽量化が求められる。同一材料や同一質量において、断面係数や断面二次モーメントを高くできる管材は、軽量化に対して有効な部材であり、材料の選択と形状の適正化、適正形状を実現するための加工法に対する要求は益々高まると考えられる。このように持続可能な社会を構築していくためには、チューブフォーミング技術の発展は必須である。管製品や管の成形方法には、高寸法精度、高成形性、高強度、高生産能率、フレキシビリティなど様々な特性が求められるが、求められる特性は、相反し、しばしば両立しにくい状況にある。この両立しにくい特性を実現する使命が、チューブフォーミングを魅力的にしている。例を挙げると、成形性と強度は相反関係にある。軟鋼は成形限界が高いが強度は低い。高強度鋼は成形限界が低い。これに対し、同一の化学成分の鉄鋼材料であっても、造管の過程で温度履歴と加工度の組み合わせによって、成形性と強度のバランスをとる、言い換えると、成形性と強度の優先度を制御する技術も開発されている。また、ホットスタンピングと同様の焼入れも有効である。加工中には強度は低くし成形限界を高くしておき、加工後に高強度化ができればよい。これを実現するために、管内部にエアブローを導入して管壁を支えながら熱間加工し、加工後に金型冷却による焼き入れを実施する技術が用いられ始めている。製品の小型化と寸法精度も相反する関係にある。一般に、小型化により金型精度確保や位置制御が困難となり、寸法精度が低下する。これに対し、加熱と冷却による材料の超塑性を利用するダイレス引抜きでは、加工前後で材料断面は相似形を保つと言われており、初期の寸法精度を確保することによって、成形後の小型製品の寸法の確保も可能となる。材料の見直しも有効となる場合がある。金属の代わりに医療用プラスチックを用いたマイクロニードルの射出成形が報告されている。工具材料の見直しの点からは、管内部に液体マンドレルを用いる方法が提案され、医療用極細管への適用が報告されている。このようにチューブフォーミング技術は、相反する特性を達成するために、素材、素材形状、加工工程、工具など様々な点から開発が行われている。今後も、チューブフォーミング技術は少子高齢化や環境問題など諸課題の解決に貢献すると期待している。天田財団では、チューブフォーミングを含め、製造技術に関する研究を長年にわたり助成し、研究を活性化し、得られた有益な成果を公表してきている。これら成果と、助成を受けた研究者が、よりよい社会の実現に貢献することを願っております。今後とも天田財団の公益事業活動へのご支援をお願い申し上げます。- 7 -説苑社会に貢献するチューブフォーミング久保木 孝*T. Kuboki

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