SrSiPを溶着した人工骨を比較試料と共にラットの背部に皮下移植した。4週後に摘出し、H-E染色により細孔内の新生骨形成の様子を観察した(図12)。元の人工骨(a)の場合と比較して、SrSiPを溶着した人工骨(b)では、細孔内部の新生骨形成が顕著に生じており、SrSiP溶着層の存在で骨形成が促進されていることが示された。 同様に、ケイ素イオンとともに更に亜鉛イオンをドープしたSrZnSiPについても同様に評価を行ったところ、同様に顕著な新生骨の形成が認められた。今後更に様々な無3.4 β-TCP人工骨に対するアパタイトの溶着加工7) ここまではプラスチックに対するレーザー溶着を検討したが、セラミックスについても同様な検討を実施した。医療用セラミックスとして多孔質HAPやβ-TCP(リン酸三カルシウム)から成る人工骨が利用されている。多孔質内部で骨芽細胞が増殖して新生骨を産生し、骨再建の足場として機能する。しかしながら自家骨移植のレベルに遠く及ばないため、既存の人工骨に更に骨再生を促進させる機能を付与することが望まれる。ストロンチウムアパタイトには骨再生促進作用が認められることから、これを既存人工骨にレーザー溶着して骨形成を高める検討を実施した。 図11には、既存のβ-TCP人工骨に対してSrSiP微粒子をコーティングし、レーザー照射で300 ℃付近まで加熱した後水洗した試料のSEM観察像を示した。表面および割断面に対するSEM/EDS観察による構成元素のマッピング解析から、人工骨の表面および内部に均一にSrSiPがコーティングされていることが確認された。人工骨内部にはレーザー光は照射されていないが、セラミックスの熱伝導率が比較的高いため、表面温度が内部まで効率的に伝導してアパタイトが熱固定されたことを示している。 図11 β-TCP人工骨にSrSiPをレーザー溶着した試料の(a)SEM像、(b)カルシウムイオン分布図、(c)ストロンチウムイオン分布図、(d)ケイ素イオン分布図。 機イオンの導入やそれらの至適濃度の決定などの検討を進めることが期待される。 ヒアルロン酸をコートしたディスクの表面は水中に浸漬すると粘液質のゼリー状に変化した。この状態で水中において表面の摩擦係数を測定し、図9に示す結果を得た。静摩擦係数(測定開始時の摩擦係数)および動摩擦係数(移動中の摩擦係数)を比較したところ、UHMWPEは平滑で低い摩擦係数を示したが、コロイダルシリカをコートした場合、コート層表面の凹凸の影響で摩擦抵抗が増加し、摩擦係数が増加した。ヒアルロン酸をオーバーコートすることで動摩擦係数はベースのUHMWPEと同程度に低下したが、表面の凹凸の影響で摩擦係数の変動が大きくなった。コロイダルシリカ層の厚みが大きいことが原因であるため、これをさらに薄くすることが摩擦抵抗を下げる上で有効と考えられる。 3.3 人工靱帯に対するアパタイトの溶着加工6) ポリエステル(PET)繊維を束ねて構成される人工靱帯を用いて、これの表面にアパタイトをレーザー溶着することで、表面に骨癒合性を付与する検討を実施した。骨癒合性の評価として、疑似体液中からのリン酸カルシウムの析出と固定化について評価した、PET繊維は20 μm径の細い繊維で、融点以上の温度で容易に融着し変形したが、短時間レーザー照射条件で、繊維の変形を伴わずにアパタイトを熱溶着した。図10(a)にSrSiP分散液をコートし、レーザー溶着した人工靱帯のSEM写真を示した。同(b)にはEDSによる表面の元素分析結果を示した。加熱温度は150~160 ℃の範囲が最適であった。この温度範囲において繊維を変形することなくコーティング層は接着した。これを疑似体液中に浸漬したところ37 ℃ 2週間で表面はリン酸カルシウムで覆われ、SrSiPコート量を遥かに上回る量のリン酸カルシウムが沈着していることが分かった(図10(c),(d))。析出したリン酸カルシウム層は擦過することで最表層は部分的に脱落したが、SrSiP層の大部分はPET繊維に強固に接着していた。 図10 SrSiPをレーザー溶着した人工靱帯の(a)SEM像と、(b)EDSによる表面元素分析結果。疑似体液浸漬後の(c)SEM像と(d)EDSによる表面元素分析結果。 - 77 -
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