FORM TECH REVIEW_vol32
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0***1357000図3 過飽和液中レーザー照射法によりアパタイトを成膜したPEEK基材および未成膜基材表面での細胞増殖性:(左)培養7日後までの細胞数変化(n = 4, * p < 0.05)、(右)培養7日後の細胞核染色像2) 図5 過飽和液中レーザー照射法によりフッ素含有アパタイトを成膜した象牙質基材表面(左:照射域、 中:境界域、右:非照射域)のSEM像11) 図4 (左)水中レーザー照射によるPEEK基材表面の接触角変化、および(右)PEEK基材への過飽和液中レーザー照射によるCaP過飽和溶液の温度変化2) 度光吸))mn054(())⁰(())C⁰((100µm100µm2 μm10 μm2 μm0.20.1る。これに並行して、基材に吸収されたレーザー光エネルギーの一部が熱に変換され、レーザー光照射域および照射域近傍の溶液を加温する(図4右)。アパタイトの溶解度は、25°C付近では液温上昇により低下する。従って、照射域近傍における液温上昇は、物質移動速度の増加だけでなく過飽和度のさらなる増大を通じて3)、CaPの核形成・結晶成長を加速する効果を持つ。これらの、レーザー光照射による基材の表面修飾と溶液加熱の複合的な効果によって、照射域において選択的にCaPが迅速析出すると考えられる。 上述の通り、過飽和液中レーザー照射法によるCaP成膜技術においては、基材のレーザー光吸収が重要な役割を持つ4,5)。基材の光吸収特性に応じて適切なレーザー光波長を選択し、照射条件(パワー密度、照射時間など)を調整することで、様々な材料基材に本成膜技術を適用することができる。これまでに、過飽和液中レーザー照射法によるCaP成膜を確認した人工材料としては、PEEKに加えて、ポリエチレンテレフタレート4)、エチレン-ビニルア39373533312927252330102030アアパパタタイイトト成成膜膜面面LAB-processedUntreated未未成成膜膜面面角角触触接接照照射射時時間間((分分))培培養養期期間間((日日))水水中中照照射射にによよるる接接触触角角変変化化過過飽飽和和液液中中照照射射にによよるる液液温温変変化化100806040201020アアパパタタイイトト成成膜膜面面未未成成膜膜面面度度温温液液溶溶和和飽飽過過基基材材あありり基基材材ななしし照照射射時時間間((分分))象象牙牙質質象象牙牙細細管管ルコール共重合体6)、焼結水酸アパタイト5)、チタン金属7,8)、コバルトクロム合金9)、歯科用コンポジットレジン(無機フィラー含有アクリル系高分子)10)が挙げられる(いずれも30 HzのNd:YAG レーザー使用)。 3.歯面改質応用研究 筆者らは、過飽和液中レーザー照射法の強み(迅速・簡便性、部位選択性)を活かした応用先として歯面改質を着想し、北海道大学大学院歯学研究院と共同で、歯質のモデル物質(焼結水酸アパタイト基材)を用いた基礎検討を行った。歯面を改質・高機能化するため、抗菌作用と歯質強化作用(耐酸性向上効果)の期待されるフッ素をCaP過飽和溶液に添加することで、フッ素含有アパタイトの成膜を試みた。条件検討の結果、フッ素(NaF)を1~3 mM添加した過飽和溶液中、Nd:YAG レーザーの非集光ビーム(355 nm, 30 Hz, 6 W/cm2)を30分照射することで、基材表面のレーザー光照射域にフッ素含有アパタイトを成膜できることを明らかにした5)。得られたフッ素含有アパタイト膜は、う蝕原因菌(Streptococcus mutans)に対し抗菌性を示したほか、焼結水酸アパタイト基材を上回る耐酸性(pH = 5.4のクエン酸緩衝液中での溶解性試験による)を示した5)。生成膜の優れた耐酸性は、フッ化物イオンが水酸アパタイト結晶の水酸基の一部を置換し、結晶の溶解度を低下させた効果によると考えられる。これらの結果から、本法で得られるフッ素含有アパタイト膜が、抗菌性と耐酸性を併せ示す歯面改質材として機能する可能性を確認した。 以上の基礎検討結果に基づき、北海道大学病院と産業技術術総合研究所の倫理委員会での審査と機関承認を受け、ヒト抜去歯牙由来の基材を用いた自主臨床研究を進めた。まず、インフォームドコンセントを得た患者より抜去歯牙(通常の治療目的で抜去された歯牙)の提供を受け、ヒト象牙質基材を作製した。同基材をフッ素(1 mM)添加過飽和溶液中に設置し、モデル物質と同条件でレーザー光を30分照射した。その結果、モデル物質と同様、照射域のみにフッ素含有アパタイトを成膜できることを確認した(図5)11)。透過電子顕微鏡(TEM)およびエネルギー分散型X線分光器(EDX)による分析の結果、生成膜は、フッ素を一様に含む柱状ナノ結晶からなる厚さ数ミクロンの膜フフッッ素素含含有有アアパパタタイイトト- 59 -照射域⾮照射域

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