*1光射〔造語〕 レーザー(光)プロセッシング(照射)で明るい(光輝く)未来を拓く(射止める)*京都大学 名誉教授・特任教授公益財団法人天田財団は、1987年に財団法人天田金属加工機械技術振興財団として設立され、今日まで日本の将来の「モノづくり」のための研究開発基盤強化を支援すべく金属等の塑性加工分野における研究開発助成と普及啓発の事業により社会貢献をしてまいりました。モノづくりを原点にしておりますが、財団の根幹の理念は我が国の科学技術の発展を支援することにより人々の暮らしを豊かなものにすることにあります。そのような理念を実現すべく、事業内容もより深化かつ進化させてきました。そして、21世紀になりElectronics(電子工学)からPhotonics(光子工学)へと科学技術が発展する中、日本学術振興会により「光の日」(3月8日)が制定された翌年の2007年からレーザプロセッシング分野の研究開発に対しても助成・普及啓発事業を始め、今日に至っています。「レーザプロセッシング」は広義には「光と物質との相互作用」であり、それは正に「自然科学における1丁目1番地」と言えます。その理由は次の通りです。自然科学技術とは「自然界における物事を解釈し、その応用を技術に昇華させ、人々の暮らしをより豊かにすること」です。自然界とは「時空間」、物事の物は「物質」、事は事象(変化や運動)であり、変化を誘導したり、運動を駆動するのが「力(相互作用)」です。よって、自然科学は「時空間における物質と力(相互作用)を解明する学問」と換言できます。現代物理学における解釈では、物質を構成する素粒子はクォークとレプトンであり、力は4つあり、極近傍で作用する強い力と弱い力、そして無限遠に作用する重力と電磁力です。中でも、電磁力は重力に比して非常に大きな作用をします。電磁力が作用する素量は電荷ですが、その電荷をもつ最も軽い素粒子はレプトンの「電子」です。よって、電子は様々な現象や物性の主役を担っています(20世紀までの電子工学の発展)。他方、力(相互作用)を担う素粒子はゲージ粒子であり、電磁力のゲージ粒子が「光子」です。言い換えると、物質に力が働く過程のうち最も重要なものは光子と電子の相互作用と言えます。つまり、光子を自在に操れば電子を制御すなわち物質を操作できることになります。この光子を能動的に操るということは極めて困難なことでしたが、レーザの発明により現在、人類は光を自在に操ることができるようになりました。つまり、レーザ光により電子(物質)を操作することが可能となり、正に「レーザプロセッシング」が開花するようになりました。財団はこの「1丁目1番地」を支援することにより、科学技術の発展に貢献しております。物理的に広義に捉えると、レーザ光を操作して対象物に何らかの変化をもたらすこと総てが「レーザプロセッシング」になります。天田財団では、現在の助成対象分野を「金属等の塑性加工分野及びレーザプロセッシング分野に必要な技術の研究・調査に対する研究開発」としておりますが、「金属等」と「必要な技術」に夫々注釈が付されており、前者には「金属、プラスチック、ガラス、CFRP、セラミックス及び複合材料等です」、後者には「加工に間接的に影響を及ぼす技術、センシング、IoT、AI、CPS、計測等も含みます」となっております。財団の発足時からの志の「モノづくり」の基盤強化支援の視点から、レーザプロセッシング助成開始当初は金属が主でしたが、この数年の応募では、対象物は多種多様化してきました。図はこの5年間の採択課題の対象物の素材と形態を示したものです。樹脂やセラミック(図では誘電体に分類)などの非金属の割合が増えてきています。また、形態も単にバルクの加工だけではなく、薄膜や粉末等、レーザの特徴を活かせる形態の研究が増えてきています。天田財団が助成をいたしました研究開発の成果は、毎年、助成期間終了後に「天田財団助成研究成果報告書」として出版されています。そして、テーマを設定しまして、今日までの報告書から選定しました成果を成果報告会で講演を頂くとともに、そのテーマを特集として最新の情報と進展をも合わせて啓発書『FORM TECH REVIEW』を刊行しております。今までレーザプロセッシング分野が特集として取り上げましたのは、次の通りです。- 55 -光射*1レーザプロセッシングの医療・バイオ分野への応用 〜自然科学の1丁目1番地が人々の暮らしに安心を〜阪部 周二*S. Sakabe
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