FORM TECH REVIEW_vol32
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8.結び 謝 辞 せることにより,2本の針が交互に前進,後退を繰り返す.この運動を行いながらデバイス本体を少しずつ前進させることで,針の交互振動,往復回転を両立させながら,対象物へ穿刺を行うことができる. 針の作製は,先端部を高精度3次元造形(Nanoscribe社製,Photonic Professional GT) で作製して,ギザギザ部分を再現する.材質は光硬化性のアクリル樹脂である.その先端部分を金型内に設置(インサート)し,根元部分をPLA樹脂の射出により成形して,両者を結合するインサート成形を採用する(図15 ).先端部分を別途作製することで蚊の針の微細な形状が再現でき,成形時針先部分の充填不足やバリの発生を回避できる. 3次元造形で作成した針は,長さ1.8 mm,幅0.05 mm(50μm),厚さ0.025 mm(25μm)の,断面が樋状の極微細針である.蚊のサイズと同様の微細な針が作製できる. また,樋状の半割針を2本作製し,組み合わせることで,液体を流通できる中空の針が構成できる.2本であるため,蚊と同様に交互振動穿刺させることが可能である.先端部分には蚊を模倣したギザギザ状の突起を設けている.根元部分はPLAの射出成形により作製する.カム機構の溝に組み込む出っ張り部分を設けている. 先端部分を作製して金型に組み込み(図16),インサート成形を行った.樹脂は結合部分まで到達し,バリ部分もなく想定通りに成形できた(図17).これを2本作製して,カム機構へ組み込んだ.交互振動・回転を行いながら人工皮膚への穿刺に成功し,吸水も行えた12). 7.2 ナノインプリント法による微細中空針の成形13) PLAシートに熱ナノインプリントを施すことにより,中空針(円筒形状)を作製した.これを前項のインサート成形により針先端部に用いることにより,先端部から根元部分が全てPLA製の中空針の作製が将来的に可能となる. 中空針の作製方法は,①高精度3次元造形を用いて母型(針のを作製,②母型にPDMSを流し込み離型することで,PDMS製の押付型を作製,③押付型をPLAシートに押し付けて熱ナノインプリント法により針を作製,の3段階に分けられる.③の工程の模式図を図18に示す. PDMSモール加熱 PLA 図18 PLA中空針の熱ナノインプリント ナノインプリントの装置として,明昌機工(株)のNM-0901HBを用いた.上基板にPDMSで作られた押付型を,下基板にPLAシート(三菱ケミカル(株),SC209-200)をそれぞれ固定し,下基板のみを加熱する.PLAの表面温度を上昇させ,一定時間押付力を維持する.その後,下基板をわずかに後退させ,その状態のまま冷却を行った後,離型加圧 離型 する.この後退作業は,高圧力をかけた際,柔軟な押付型が過剰に変形し,成形物の形状が崩れることを防ぐために行う.パラメータの値は,試料温度は200 ℃,押付圧力は100 N,保持時間は60 sec,離型速度は0.40 mm/s,後退距離は0.7 mm,後退速度は0.0085 mm/sとして設定した.また,PLAシートの厚さは1200 μmに設定した. 熱ナノインプリント法を用いて作製した中空針を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した結果を図19に示す14).斜面とその両側面の三面が形成されたランセット形状の中空針の作製に成功した.側面上には蚊を模倣したギザギザ形状の突起が形成されている. 図19 PLA中空針の成形結果(SEM画像) 本研究では,生体適合性樹脂PLAを用いた射出成形による新たな中空微細針の作製に成功した.この針は既存の金属針における金属アレルギー,廃棄コスト,細径化限界などの様々な課題の解決が見込める.さらに,人体への穿刺実験の結果から,従来の金属針での穿刺より低侵襲で痛みが低いことが判明した. 助成後の取り組みとして,断面が樋状の半割針をインサート成形法で2本作製し,これらを組み合わせることで液体を流通でき,交互に振動することのできる針の作製を紹介した.また熱ナノインプリント法による中空針の作製を紹介した. 本研究は,公益財団法人天田財団からの一般研究助成により実施した研究に基づいていることを付記するとともに,同財団に感謝いたします. - 32 -

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