4.PLA針の人工皮膚に対する穿刺実験 4.1 実験装置と方法 2層 PDMS に蚊は,穿刺の際に針をねじりながら穿刺する様子が確認されている.この動作も抵抗力を下げることで,細い針を穿刺しやすくしているものと考える.前章で説明した開発したPLA中空微細針に回転を加える専用の穿刺デバイスを作製した.模式図,設計図,写真を図4に示す.本デバイスは,PLA針を直径1 mmのガラスキャピラリーに接続したものを組み込むことができるようになっており,ステッピングモータの回転をカップリングで伝えることで,回転動作が可能になっている.ステッピングモータはArduinoにより回転数および回転角の制御が可能である.また,ガラスキャピラリーは流体カップリングでデバイス側面のパイプと接続されており,このパイプをポンプと接続することで,液体の吸引が可能である.デバイスの設計・作製は協力関係にある精密機器メーカとディスカッションし寸法等を決定し,同社に加工を依頼した. 実験装置の全体像を図5に示す.ロードセル(テック技販 TGRV02-2NB)にゴム製の人工皮膚を取り付け,電動スライダー(THK KR30)で針を1.5 mm穿刺し元の位置に戻す際の穿刺抵抗力を測定し,たわみの様子を実体顕微鏡(Nikon SMZ800N)で観察した.画像はデジタルカメラ(Sony α7)で撮像した.使用した針は長さ2 mmのPLA針である. 人工皮膚としてPolydimethylsiloxane(PDMS,シリコーンゴムの一種)を用い,主剤と硬化剤の割合を30:1の比率で混合して,ヤング率を人間と同程度の0.4 MPaに調整した. PDMSは透明の樹脂であるため穿刺した際のたわみの量を視認することが難しい.そこで,PDMSの表面に青色に着色した層を設け穿刺した際に青色の層の変形からたわみを視認しやすくする2層のPDMSを以下の方法により作成した.まず,主剤と硬化剤を30:1の割合で混ぜ合わせたものを真空脱泡したのち,加熱し透明なPDMSを作製する.その上から同様の比率で混ぜ合わせメチレンブルーで青色に染色したものを流し入れ真空脱泡し加熱して硬化させる.この際,青色層と透明層は一体化し1つのPDMSとなる 以上の装置を用いて以下の方法により実験を行った. ①吸着治具をPDMSに吸着し,ロードセルを校正する. ②電動スライダーに穿刺デバイスを固定し,0.1 mm/sの速度でPDMSに向かって1.5 mm動かし,穿刺後逆方向に0.1 mm/sの速さで1.5 mm動かして初期位置に戻す. 以上の所作を回転あり,回転なしの二条件について行う.その際のロードセルからの抵抗値の時間推移を記録した.また穿刺の様子をデジタルカメラで動画撮影した. 4.2 結果 各条件において5回のデータの平均をとった穿刺抵抗力の推移を図6に示す.たわみの様子を図7に示す.回転図5 実験装置 図6 穿刺距離に対する穿刺抵抗力 1 mm (A) 回転なし 図7 たわみの様子 真空チャンバ 吸引チューブ 図8 皮膚吸着治具 (B) 回転あり 穿刺デバイス先端挿入部(針が穴を通り皮膚を穿刺) 10 mm 1 mm 皮膚吸着面 なしの場合の最大穿刺抵抗力は9.3 gfであったのに対して,回転ありの場合のそれは7.3 gfであり,20 %ほどの低減が見られた.たわみに関しては,回転なしの場合広範囲がたわんでいるのに対して,回転ありの場合は針の近傍部分がわずかにたわんでいるのみあることが確認された.これより針を回転させることにより,皮膚を容易に早く穿刺することができ,穿刺抵抗力も皮膚のたわみも低減されることが確認できた. 実体顕微鏡 PLA針 ロードセル 回転デバイス スライダー - 29 -
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