FORM TECH REVIEW_vol32
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図10 シミュレーションの結果:各工程での最大トレスカ応力は,それぞれ382,424 MPaとなった.シミュレーションは日本ニューロンが行った. 5.銅フルシームレス空洞の製造 5.1 液圧成形の工程 超伝導空洞のコストを低減するために,銅で空洞本体を製作し,内部をニオブでコーティングして超伝導を発現させ,廉価な空洞を実現する研究が近年,盛んに行われている.加速空洞の内面は滑らかさが求められ,コーティングの下地は継ぎ目の無い空洞が理想的である.欧州原子核研究機構(CERN)は1989年までに銅パイプを用いて液圧成形による空洞製造に成功している6).工程は3章で述べたのと同じく,アイリス径より太いパイプを使って,ネッキング後に液圧成形によりセル部を作る.図5に示した形状の仕上がりになるため,アイリス部で切断してビームパイプを左右に溶接する必要がある.今回,さらに左右のパイプとセルの間の溶接継ぎ目も無くして,完全に1個の部品としてセル1つの空洞を実現した.これをフルシームレス空洞と呼ぶ.これは日本ニューロン(株)との共同研究の成果である7).1本のパイプを一気に空洞形状に成形する方法を試したが難しいことがわかり,図9に示す2工程による成形を発案した.2種類の金型を用意し,液圧成形のみで仕上げる.使用した液圧成形機は立型のため,パイプと金型は図2と異なり,縦方向の配置となる.一方の金型の底部を固定し,他方の金型を押し込む,図2ではネッキングが必要であるが,これを廃して工程を簡素化した.ネッキングはアイリス一か所ずつ加工するので時間がかかる.生産性の大幅な向上が期待できる.試作した銅空洞は,図6と同じ1.3 GHz空洞あるが,寸法が少し異なる.まず外径88 mmの銅パイプの中央を130 mm程度に膨らませ,次に金型を交換して,最終形状の210 mm程度まで膨らませる.1工程と2工程の間には,伸び性を回復するために500℃×2時間の真空焼鈍を行う. 図9 フルシームレス空洞の製造工程 銅はニオブより成形性が良いが,液圧成形でこれほど大きく膨らませる工業的な例は見当たらない.近年,液圧成形の過程をコンピュータで精度よくシミュレーションできるので.どのような条件で成形すればうまく膨らむか,実際の成形に先立ちシミュレーションにより検討した.図10にシミュレーション結果を示す.シミュレーションには実際の銅パイプを展開して製作した試験片を用いて引張試験を行い,得られた材料パラメータを使用した.押し込み速度は1 mm/sである. 5.2 成形例 実際に使用した液圧成形機を図11に,成形した銅パイプを図12に示す.液圧成形機は縦方向に圧縮する.流体は水である.シミュレーションを基に決定した,ストロークと水圧の関係(負荷経路)を数値データとして,液圧成形機に入力することで,自動的に成形できる.図4に示した液圧成形機は手動機であるが,今回は自動機である.成形時間は各行程2分程度である.銅シームレスパイプは外径88 mm,肉厚5 mmである.材質は無酸素銅(JIS C1020)である.純度は99.98%,引張強度219 MPa,伸び67%,硬さ34HVである.電子管用無酸素銅C1011という高純度の材料もあるが,ここでは通常の無酸素銅を用いた.JIS H3300にシームレス銅パイプが規定されており,4 m程度のパイプを国内で複数社から調達可能である.使用したパイプは引き抜きにより製造された.成形により肉厚は減少し,中央部は1工程後に3.9 mm,2工程後に2.6 mmとなった.実験において破裂したパイプは,肉厚のばらつきが大きいものが見られた.今回は肉厚のばらつき(最大値-最小値)が0.1 mm以下になるように特別に製造したパイプを使用した.本成形では非常に大きく膨らませるので,材料の伸びも大切であるが,それ以上に肉厚のばらつきを小さくすることが重要である.銅パイプは工業的に流通しているので,ニオブパイプと比べるとコストは1/65以下である. 切断した空洞内面を図13に示す.成形前のパイプ内面の長手方向の表面粗さは1.0 µmRaである.成形後の赤道部は2.9 µmRaである.肌荒れの少ない良好な仕上がりとなった.これまでに十数本の成形に成功し,高い再現性を- 13 -

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