5.結び 謝 辞 参考文献 不要な銅箔を削り取る(あるいは溶かし去る)のではなく,必要量の銀ナノワイヤーだけを使用して配線パターンを形成することは,資源の有効利用という観点からもエコロジカルで意義がある.さらに配線パターンは隙間を残した銀ナノワイヤーの重なり(ネットワーク構造15,16),図1)から構成されているので,ぎっしり金属で埋め尽くされている通常の配線パターンと比べてさらに金属の使用量が少なくなっている.表皮効果により配線表面しか電流が流れない高周波用配線としては,このような銀ナノワイヤー・ネットワーク構造が有利である. また,銀ナノワイヤー・ネットワーク構造では交差点で銀ナノワイヤーが相互に交差角度が変わりうる「柔軟性」が期待される.その結果,銀ナノワイヤー・ネットワーク構造は「曲げ」に対して原理的に柔軟となり17),バルクの板状構造である通常銅箔よりも「曲げられる」回路実現に適していると考えられる. 今後,本研究で開発した光溶接技術を活用して,高く,安定した導電性を示す銀ナノワイヤー堆積配線をマイクロ波通信に活用して行きたい.5Gから6Gへと,ワイヤレス無線技術への期待は高まっており,小電力デバイス用途でも小型シートアンテナを印刷技術で製造することは価値があろう. 本研究で導入したラボ用マイクロ波オーブンは大きな効果があり,作製された銀ナノワイヤーは,従来法と比較して太さ・長さともそろい,スマートフォンのWi-Fiで使用される2.4 GHzマイクロ波周波数まで高い導電性を示した.マイクロ波周波数での長距離ワイヤレス給電応用をめざして,3D加工機を使って塗布・制作した銀ナノワイヤー・シートアンテナは市販品の銅箔受電アンテナよりも高い受信性能を示し,銀ナノワイヤー・シートアンテナがワイヤレス給電素子としての実用性をもつことが実証された.マイクロ波周波数での高い導電性には,(1)比較的低濃度の銀ナノワイヤー分散液を高速塗布することにより凝集体の生成を抑制すること,(2)塗布後,本研究で開発した「局所光溶接」により,ミクロな銀ナノワイヤー交叉点でのみエバネッセント場増強される,光電界による熱的な「溶接」が交叉点での接触電気抵抗を大幅に下げること,の両者が有効であることが証明された.これら2つの機械加工的な着想をナノテクノロジーに導入したことが,本研究に成果をもたらしたといえよう. 皮膚貼付け型センサ回路への応用としては,高周波表皮効果の影響を受けない大表面比の銀ナノワイヤーを積層した銀ナノワイヤー・ネットワーク構造をアンテナ線路に使用した点が画期的である.この工夫がワイヤレス給電につながり,現在主流の腕時計型デバイスと異なり,(1)電源電池を廃して軽量かつ柔軟なシート型センサデバイスが実現,(2)皮膚密着型の高感度な生体計測が連続かつリアルタイムに可能となる.周波数2.4 GHzでのワイヤレス受電にも成功したので,センサデータをユーザスマートホンへ転送してリアルタイムにグラフ表示する機能4)なども実装可能となろう. 本研究は,公益財団法人天田財団からの2019年度一般研究助成により実施した研究に基づいていることを付記するとともに,同財団に感謝いたします. 1) Z Q. Li (Ed.), “Anisotropic Nanomaterials: Preparation, Properties, and Applications”, Springer, Heidelberg (2015). 2) A. Zhang, G. Zheng and C. M. Lieber (Eds.), “Nanowires: Building Blocks for Nanoscience and Nanotechnology”, Springer, Switzerland, (2016). E. C. Garnett, W. Cai1, J. J. Cha, F. Mahmood, 3) S. T. Connor,M. G. Christoforo, Y. Cui, M. D. McGehee and M. L. Brongersma, “Self-limited plasmonic welding of silver nanowire junctions”, Nat. Mat., 241–249 (2012), 11. I. F. Akyildiz and M. C. Vuran, “Wireless Sensor Networks”, Wiley, (2010). C. Harito, L. Utari, B. R. Putra, B. Yuliarto, 4) 5) S. Purwanto, S. Z. J. Zaidi, D. V. Bavykin, F. Marken, and F. C. Walsh, “Review—The Development of Wearable Polymer-Based Sensors: Perspectives”, J. Electrochem. Soc., 1-14 (2020), 037566, 167. M. Chung, G. Fortunato and N. Radacsi, “Wearable Flexible Sweat Sensors for Health Care Monitoring: a Review”,J. R. Soc. Interface, 1-15 (2019), 20190217, 16. 6) 7) 高橋 俊輔,“ワイヤレス給電技術者育成のための基礎知識”, イルカカレッジ, (2012). 8) 松木 英敏、高橋 俊輔,“ワイヤレス給電技術がわかる本”, オーム社, (2011). 9) 篠原真毅, 小柴公也,“ワイヤレス給電技術 -電磁誘導・共鳴送電からマイクロ波送電まで-” 科学情報出版, (2013). 10) J.P. Curty, M. Declercq, C. Dehollain and N. Joehl, “Design and Optimization of Passive UHF RFID Systems”, Springer, (2007). 11) 柳田 祥三,松村 竹子, “化学を変えるマイクロ波熱触媒” ,ケイ・ディー・ネオブック,化学同人 (2004). 12) 財産法人産業創造研究所マイクロ波応用技術研究会編, “初歩から学ぶマイクロ波応用技術”, 工業調査会 (2004). 13) K. Finkenzeller, “RFID Handbook: Fundamentals and Applications in Contactless Smart Cards, - 102 -
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