1m以上の距離でも商品情報をやり取りできる規格として採用されているUHF帯920MHzの基本波が精度よく受信できる(図7B)だけでなく,RFIDリーダからのワイ4.その後の展開 4.1 銀ナノワイヤー・シートアンテナを使ったワイヤレス給電の実現可能性20,21) 図7で利用したアンテナ形状は,元々ワイヤレス給電可能なRFIDタグ10,13,14)である.RFIDタグは商品に取付けてそれがどの商品か区別するための標章である.商品情報を記録した専用ICが配置されており,RFIDアンテナを介して,読取り装置(リーダ)とUHF帯電波を交信して情報交換する仕組みとなっている.薄型軽量の標章とするため,電池を内蔵せず代わりにワイヤレス給電を使ってリーダから届く電波を電力として動作するパッシブ方式が広がっている.本研究では,この点を活用するため,ICを取り外したRFIDタグのアンテナを真似て,銀ナノワイヤー・シートアンテナを制作した次第である(図6). 電気回路としての詳細を次に述べる10,13,14).本来は線対称なダイポールアンテナ(平衡回路,Balanced circuit)であるが,これをグランドを持つ非平衡回路(Unbalanced circuit)に変換するループ構造(バラン10),Balun)を介してSMAコネクタに接続される.この接続点には元々2端子のベアチップ極小RFID ICが並列接続されている.入力される電波信号をこのIC内で平滑化して,IC電源となる直流電圧を作り出し,ICを動作させる.ICは変調された入力電波をデコードしてコマンドとして解釈し,要求されている情報をIC内蔵のメモリから読み出した後,この情報を高周波変調信号としてアンテナから送り返す.我々はこのICを取り外しランドに変更してSMAコネクタを取付け,作製したアンテナを広帯域6GHzのオシロスコープに接続して受信特性を評価した.これが図7である. ヤレス給電開始に合わせて受信電波が立上がり(図7C),充電完了後のRFIDコマンド(RFID番号の問合せコマンドなど)で変調された電波も正しく受信できている(図7D)ことを示唆している. 4.2 Wi-Fi 2.4 GHz帯での銀ナノワイヤー・アンテナのワイヤレス受電テスト20,21) 試作したこの銀ナノワイヤー・シートアンテナは,やや受信感度が下がるもののスマートホンのWi-Fiで使われている2.4 GHz帯電波も近距離であれば受信可能であることが,2.4 GHz帯Active RFIDリーダとの交信により実証された(図8).しばらく一定振幅の電波が続いた(図8(a),(b)の上半分)後,600 kHzで変調された2.4 GHz帯電波が受信された(図8(a),(b)の下半分).アンテナ形状を工夫すれば,ワイヤレス給電と同時に,スマートホンとの交信によりデータをスマートホンに送り,スマートホン上のアプリに表示させることも可能であることが示唆される.今後皮膚貼付けセンサ回路への展開において,センサ出力をスマートホン上に数値やグラフ表示してリアルタイムに管理できることは大きな前進である.現在主図8 2.4GHz RFID送信機からの電波を(a)銀ナノワイヤー・シートアンテナ、および(b)銅箔アンテナで受信した波形 流の腕時計型センサデバイスは皮膚への密着性が低く,特に身体運動している最中に間断なくデータ計測するには不向きであろう.健康増進のため身体運動を習慣とする人が増えている中で,運動負荷を適正レベルに維持するためには,本研究で提案する密着性の高い皮膚貼付け型センサデバイスにワイヤレス給電+データ通信機能を搭載して,データをリアルタイムにスマートホン上に表示可能にすることは大きな進歩となるだろう.同時にセンサデバイスに電源電池が不要となり,デバイスの屈曲耐性が保証され,一層の軽量化も実現する. 4.3 皮膚貼付けセンサ回路への応用に向けて 銀ナノワイヤー・シートアンテナを使ったワイヤレス給電が実現すれば,現在主流の腕時計型ウェアラブルデバイスと異なり,(1)電源電池を廃し,軽量かつ柔軟なシート型センサデバイスが実現し,(2)皮膚密着型の高感度な生体計測が連続的かつリアルタイムに可能となる.またWi-Fi周波数2.4 GHzでのワイヤレス給電が成功すれば,センサデバイスへの給電だけでなく,センサデータをユーザスマートホンへ転送してリアルタイムにグラフ表示する機能4)なども実装可能となろう.UFF帯での高い送受信感度を維持するためには波長で決まるシートアンテナのサイズは5~10 cm程度とならざるを得ず,一般に開発されているセンサ回路はこれより小さく,シートアンテナと一緒に搭載してウェアラブルデバイス5,6)とすることに大きな問題はないだろう. 通常の銅箔を切削加工(あるいはエッチング処理)して配線パターンを作製する手法では1枚のシートアンテナを削り出すにも,30分以上の時間を要する.本研究で開発したカスタム・マテリアルプリンターを使って銀ナノワイヤー分散コロイド液をプラスチックシート上に印刷塗布してアンテナを形成する手法は現状でも5分程度で終わる.インクジェットプリンタの技術を採り入れれば30秒に短縮することは可能であろう. - 101 -
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