*東京工業大学 工学院 教授クルマや航空機、電車、ロボットなど移動や動きを伴う機械装置において、軽量化は常に重要な課題となっています。軽くて丈夫な素材を利用することにより、消費エネルギーの節約、搬送や設置の省力化、環境負荷の低減などに役立つと考えられています。そのために、多くの軽量で高強度な材料の開発が進められてきましたが、最近では異なる材料を複合化し、優れた特性を創出しようとするマルチマテリアル化が注目されています。一つの部材にいろいろな個性を持つ材料を適材適所に組み合わせることにより、高機能化、多機能化、長寿命化による製品の高付加価値化と、部品数を削減することによるコスト削減が期待できます。例えば自動車の車体を高張力鋼板、アルミニウム(Al)合金、炭素繊維強化樹脂(CFRP)などを組み合わせた部材で構成することにより、従来よりも大幅に軽くかつ安全性の高い車体を実現することが可能になります。マルチマテリアル化は他にも燃料電池や医療機器、スマートホンなどの通信用電子デバイスなど多くの分野での活用が期待されています。マルチマテリアル化を実現するのに必要不可欠な技術が、種々の金属や高分子材料、セラミックスなど異なる材料を強固にくっつける異種材料接合技術です。接合技術は大きく3つのカテゴリーに分けて考えられています。すなわち同種金属同士の接合、異種金属との接合、異種材料との接合です。鋼材などの金属の接合法として溶接が一般的に知られています。アーク溶接が広く用いられていますが、近年ではレーザービーム溶接の応用が広がり、例えばテーラードブランクなどに利用されています。溶接は基本的に同種の材料の接合に用いられ、異種金属との接合への適用は限られます。異種金属や異種材料との接合には、ろう接や拡散接合などが用いられます。しかし、溶接およびろう接では高温で反応させるため金属間化合物の生成や変態・粒成長など組織変化が生じ、また熱収縮による残留応力が生じるため、それらを適切に制御することが重要になります。一方、塑性加工を利用した接合は同種金属、異種金属、異種材料の3つのカテゴリーの接合が可能で、マルチマテリアル化に重要な役割を果たすと期待されています。塑性加工による接合には、鍛接や摩擦圧接、爆発接合、摩擦攪拌接合(FSW)などの固相接合、およびリベット、かしめ、ヘミングなど機械的接合があります。鍛接は加熱した鋼材を押し付け、塑性変形を加えることにより接合する方法であり、日本刀の折り返し鍛造に用いられている伝統的な方法です。現代では連続的に鋼板を曲げて接合する鍛接管の製造にも利用されています。摩擦圧接は軸やパイプの接合などに用いられており異種材料の接合も可能です。爆発など高エネルギーを用いた接合はクラッド鋼板の製造に用いられていますが、近年ではセラミックスと金属の接合への適用が検討されています。摩擦攪拌接合は先端に突起のある円筒状の工具を回転させながら二つの材料の接合部に貫入させ、摩擦熱と塑性流動により材料を練り混ぜることで接合させる方法です。1990年ごろ英国のTWI(The Welding Institute)によって開発された技術で、当初はアルミニウム合金の接合に適用されました。熱や騒音の発生が少なく異種金属の接合が可能など様々な利点があり、近年では種々の材料への適用が広がり、さらなる発展が期待されています。機械的接合についても異種材料への適用や自動化などの新たな技術が開発されています。塑性加工による接合技術の多くは、プレス機械やマシニングセンターなどの製造装置を使って行うことができます。成形工程との統合により生産工程の短縮や生産効率の向上が可能であり、マルチマテリアル化による新たな材料機能の創出により、エネルギー問題、環境問題、資源問題など幅広い分野に貢献することが期待されます。天田財団は長年にわたり製造技術に関わる研究を助成し有益な成果を公表してきています。接合技術についても多くの研究助成が行われており、今回は塑性加工による接合技術について注目すべき研究を取り上げました。本財団の研究助成の成果が更なる技術発展に繋がり、より良い社会の実現に寄与できることを願っております。今後とも天田財団の公益事業活動へのご支援をお願い申し上げます。- 7 -説苑塑性加工を利用した接合技術への期待吉野 雅彦*M. Yoshino
元のページ ../index.html#9