FORM TECH REVIEW_vol31
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図9 多パスによる面状コーティング処理図8 (a)補助ノズルの模式図(b)ノズル外観写真図10超硬合金のLMD中における溶融池内部4.超硬合金の肉盛層のさらなる高品位化に向けた取り組みと考えられる.しかし,酸素濃度が低い場合でもレーザパワーが過剰な場合には多数のボイドやW2C相が見られた.これは,チャンバー内であっても少量の酸素の混入や原料粉末の不純物に由来する酸素を完全に排除することは不可能であり,また,レーザ照射部の温度が上がることで反応が促進され,少量の酸素であってもCOガスの生成が起こったためと推測される.■■■補助ノズルを用いた雰囲気制御方法上述の結果より,適切な酸素濃度とレーザパワーの組み合わせによって,ボイドの少ない良好な肉盛層が得られることがわかった.つまり,酸素をある程度遮断することができれば,レーザパワーの適正化によってボイドの発生を抑制することができると考えられる.そこで,図8(a),(b)に示すように粉末供給ノズルの外側に補助ノズルを設けることで,大気の巻き込みを抑制する手法を試みた.図8(c), (d)は補助ノズルを用いて,レーザパワー1200 WでLMDを行ったときの肉盛層の外観と断面マクロ写真である.雰囲気制御チャンバー内で酸素濃度を0.1 %程度に低減した場合とほぼ同等のビード外観を有する肉盛層が形成され,内部のボイドも少ないことがわかった.補助ノズルを用いることで,チャンバーのサイズに制約されることなくLMDを行うことが可能であることから,図8と同じ条件の肉盛層を3 mm間隔で並べる,面状のコーティング処理を行った(図9).外観および断面観察の結果から,ビード表面のピットや,肉盛層断面に大きなボイドはほとんど見られなかったが,単ビードで作製した肉盛層と比較するとややボイドが増加する傾向が見られた.これは,肉盛層を面状に処理する際,先の肉盛層とオーバーラップする部位が再加熱されることや,ステンレス鋼基材と肉盛層でレーザ光の吸収率に差があるために肉盛層に(c)ビード外観(d)断面マクロ写真WC由来の炭素が酸素と結合する反応が抑制され,気孔欠陥が減少すると同時に脱炭相の少ない肉盛層が得られた(a)ビード外観(b)断面マクロ写真肉盛ノズルレーザ粉末基材補助ノズル基材気泡(a)Ar(c)5 mm(b)Ar(d)1 mm過剰な入熱が与えられたことなどが原因と推測される.したがって,超硬合金を面状にコーティングする際には,より精密な入熱制御が必要であると考えられる.著者らの研究グループでは,LMDの高品位化に向けた研究を継続している.肉盛層に発生する気孔欠陥を根絶するためには,その発生メカニズムを明らかにする必要があるが,溶融池の内部を観察することは通常困難である.著者らは,石英ガラスを用いることで,LMD中の溶融池内部の挙動を直接観察することに成功した8).図10は超硬合金粉末を用いたLMD中における,溶融池の内部を高速度カメラで観察した画像である.この観察から,溶融池の内部から気泡が発生し,時間の経過とともに気泡が成長,合体する様子を捉えることができた.この結果は,先行研究で推測されているように,超硬合金の肉盛層の気孔欠陥は,溶融池内部におけるガス化反応に由来することを裏付けるものと考えられる.(a)(b)10 mm1 mm- 81 -

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