*大阪大学 接合科学研究所 教授2050年CO2等の温室効果ガスの排出を実質ゼロにする、すなわちカーボンニュートラル(脱炭素)社会が提唱され、近年、カーボンニュートラル社会実現に向けた取り組みが推し進められています。自動車産業においては、CO2排出を抑える電気自動車の開発および普及が求められています。電気自動車の動力系構成部品は、モーターコイル、バスバー、バッテリーおよびパワーデバイスがあり、それぞれの部品には、電気伝導率の高い純銅が多く使われています。そのため、電気伝導率の高い純銅の高速かつ高精度溶接や皮膜形成技術が必要不可欠となります。発電所においては、CO2排出をゼロにするために、アンモニア燃焼炉の導入が計画されています。そのためには、ボイラー内壁表面にアンモニア燃焼ガスに対応した耐腐食機能皮膜を形成する必要があります。また、CO2排出ゼロの再生可能エネルギーの一つである洋上風力発電も進められています。太陽光発電と異なり、風力発電では、駆動部があるために、風車軸表面に耐摩耗、耐腐食機能皮膜を形成する必要があります。従来の製品開発では、高機能化が重視され、製品寿命については、ある程度の年月が保証されていれば、それ以降は、メンテナンスすれば良いという考えが主流です。しかしながら、カーボンニュートラル社会では、限られたエネルギーをいかに効率よく使うかがカギとなります。そのためには、製品に対しては、長寿命、あるいはメンテナンスフリーが要求されることになります。そこで、注目される技術が、レーザを用いたアディティブマニュファクチャリング(Laser Additive Manufacturing : LAM)になります。金属材料を対象としたLAMでは、溶接による皮膜形成が基盤技術となります。LAMには、Selective Laser Melting (SLM)とLaser Metal Deposition(LMD)があります。SLMおよびLMDには、レーザクラッディング、補修、積層造形(3Dプリンティング)があります。レーザクラッディングは、皮膜形成による機能性付加技術であり、従来技術よりも高い接合強度かつ高密度な皮膜を形成できる技術であることから製品の長寿命実現化技術として期待されています。つまり、レーザクラッディングは、カーボンニュートラル社会実現に貢献する技術と言えます。本特集では、天田財団研究助成「レーザプロセッシング分野」の成果報告書からLAMに関わる研究課題を選定し、それぞれの研究成果について研究者の皆様に「FORM TECH REVIEW」への論文執筆をお願いしました。これまでのLAMに関する研究成果とともに今後の展望についても知っていただけると思います。2013年ごろ日本で巻き起こった3Dプリンターブームでは、LAMをはじめとするアディティブマニュファクチャリング技術によって、従来の加工技術・製造方法ではできなかった構造を作製でき、「モノづくり革命」が起こるのではないかと期待されましたし、現在も期待されています。その期待に応えるべくLAMによる新しい構造作製技術開発は重要と考えますが、カーボンニュートラル社会実現に貢献する技術としてのLAM、レーザクラッディング技術開発にも注力すべきと考えます。本年度の天田財団の研究助成では、LAMに関する研究開発課題が数多く採択されています。従来の加工用レーザに比べ、純銅に対する光吸収率の高い青色半導体レーザを用いたLAMの研究開発課題も含まれています。採択された研究開発課題の研究成果が、カーボンニュートラル社会実現に貢献することを願うとともに、今後の当財団への皆様からのご支援をお願い申し上げる次第です。- 57 -レーザアディティブマニュファクチャリング説苑カーボンニュートラル社会実現に貢献するレーザアディティブマニュファクチャリング塚本 雅裕*M. Tsukamoto
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