*東京大学 大学院工学系研究科 教授2021年10月〜11月にかけてグラスゴーにて開催されたCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)は、さながら Carbon Neutral を実現するための各国の公約の表明合戦の場となりました。Carbon Neutralを実現するためには、1970年代のオイルショック以後間断なく我が国が続けてきた省エネを、一層推し進めて行かねばなりません。省エネはあらゆるセクターで進めねばならず、当然国としても進めるべき国策となっています。G7の各国の中では税負担が比較的軽く、公的支出の幅および量が限られているわが国で果たして十分な対策を取ることが出来るのかが、大いに心配されるところです。さて塑性加工は、十分な金型寿命が担保されるのであれば、もともとエネルギー消費が少ない省エネルギー型加工技術です。その対象材となる高強度鋼板などの高強度度材料は、輸送機器などの軽量化に大いに貢献しますので、高強度材料の塑性加工は、Carbon Neutralの実現に向けて大いに推進すべき学問であり技術分野ということになります。天田財団では、長らくの間重点研究開発助成の課題として、高強度材料の加工、軽量材料の加工、金型、が取り上げていることから明らかな通り、省エネルギー型加工を見据えた課題設定を行ってきたところです。一般研究開発助成についても、採択課題には高強度材料の加工、軽量材料の加工、金型が数多く取り上げられています。Form Tech Review 誌を今年度企画するにあたり過去の研究開発助成を調べましたところ、「軽量部材製造」「高強度鋼板・材料」「金型」に関わる数多くの研究開発課題が採択されていることが改めて浮き彫りになりました。Form Tech Review 誌を企画する側の立場としてはとてもありがたいことです。Carbon Neutral を2050年に実現できるのでしょうか? 半年ほど前から、実現できるできないの議論のフェーズを飛び越えてしまい、もはや、実現しなければならない、実現するために出来ることは何でもやる、という状況になっている様に感じます。自身の半世紀以上前のことなので詳しくは記憶していませんが、ある星に住んでいる人が異星人からの何百年(?)も前のメッセージを受け取り、その星を探検したところ、その星は今や、科学の成果を駆使して住人の存在を感じさせないほど深い緑に囲まれた星となっていた、という物語を幼少期に読んだことが思いだされます。2050年を超えた先の宇宙船地球号が持続可能な発展を遂げ人々が幸せに暮らす場所であり続けるためには、2050年のCarbon Neutralは超えねばならない通過点なのかもしれません。天田財団の研究助成による新らしい成果が、この様な社会の実現に資することを願い、皆様の当財団への今後のご支援をお願い申し上げる次第です。- 9 -説苑軽量部材製造に高強度鋼板・材料・金型の研究開発が果たす役割柳本 潤*J. Yanagimoto
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