図10■(a-c)象牙質上に転写したFn-CaPマイクロチップのSEMイメージ.(b)の白い点線で囲まれた領域の一部をFIB加工し断面観察試料を作製.(d,e)象牙質上のFn-CaPマイクロチップの断面SEMイメージ.参考文献[15]より引用. ■・■■ヒト象牙質ff天然歯■への転写と界面評価■■本手法の歯面への適用を基礎実証する目的で,Fn-CaP膜のヒト象牙質基材(インフォームドコンセント後,提供された抜去歯牙より作製)への転写を実施した.象牙質は,硬組織の無機成分であるアパタイトが70%と残りはコラーゲンなどの軟組織で構成され,外部から歯の中心の歯髄まで無数の象牙細管が走っている.歯周病や加齢などにより歯茎が下がりセメント質が薄れるなどすると,この象牙細管が露出する.このヒト象牙質へのレーザー転写をLIFTOP法により検討した結果,クラックレスなFn-CaPマイクロチップの転写堆積に成功した(図10(a)).さらに,転写したFn-CaPと象牙質の界面を観察するため,FIB加工により試料を薄片化(図10(b,c)),断面SEM観察を実施した結果を図10(d,e)に示す.Fn-CaP膜と象牙質界面に大きなギャップのない界面形成を確認できた. 4.結言■本稿では,2種類のレーザー転写法について紹介した.ナノ/マイクロドットの描画に適したレーザー誘起ドット転写(LIDT)法と,機能性膜の高品位転写に利用可能な光スタンプ転写(LIFTOP)法である.前者では,AIST-LIFTプロトタイプ機として,マイクロチップレーザーを用いて小型化した転写システム開発を行っている.後者については,バイオ・医療応用を目指した医工連携テーマとして,生理活性タンパク質担持マイクロチップのレーザー転写に関する取り組みを紹介した.レーザー転写用犠牲層と衝撃吸収性レシーバー基材を用いることで,脆性材料であるCaP膜においても膜形状を維持した良好な膜転写を実現できた.今後,細胞接着などに加え細胞の局在化や伸展方向など自在な細胞制御が可能なレーザー生理活性コーティング技術を展開したい.今後も,微粒子から機能性薄膜,熱に弱いタンパク質担持材料まで,他手法では難しい物質1) M. Feinaeugle, R. Pohl, T. Bor, T. Vaneker, and G. Römer, Additive Manufacturing 24, 391-399 (2018). 2) Y. Nakata, K. Tsubakimoto, N. Miyanaga, A. Narazaki, T. Shoji, and Y. Tsuboi, Nanomaterials 11, 305 (2021). 3) M. Feinaeugle, P. Horak, C. L. Sones, T. Lippert, R. W. Eason, Appl. Phys. A 116, 1939-1950 (2014). 4) A. Narazaki, T. Sato, R. Kurosaki, Y. Kawaguchi, and H. Niino, Appl. Phys. Express 1, 057001 (2008). 5) 奈良崎愛子, オプトロニクス 433, 127-131 (2018). 6) J. Ihlemann and R. Weichenhain-Schriever, Thin Solid Films 550, 521-524 (2014). 7) A. Narazaki, R. Kurosaki, T. Sato, and H. Niino, Appl. Phys. Express 6, 092601 (2013). 8) E. Breckenfeld, H. Kim, R.C.Y. Auyeung, N. Charipar, P. Serra, and A. Piqué, Appl. Surf. Sci. 331, 254-261 (2015). 9) D. Tsakona, I. Theodorakos, A. Kalaitzis, and I. Zergioti, Appl. Surf. Sci. 513, 145912 (2020). 10) J. Lim, Y. Kim, J. Shin, Y. Lee, W. Shin, W. Qu, E. Hwang, S. Park, and S. Hong, Nanomaterials 10 (2020) 701. 11) S. Papazoglou, D. Kaltsas, A. Logotheti, A. Pesquera, A. Zurutuza, L. Tsetseris, and I. Zergioti, 2D Mater. 8, 045017 (2021). 12) A. Sorkio, L. Koch, L. Koivusalo, A. Reiwick, S. Miettinen, B. Chichkov, and H. Skottman, Biomaterials 171, 57-71 (2018). 13) I. Zergioti, A. Karaiskou, D. G. Papazglou, C. Fotakis, M. Kapsetaki, and D. Kafetzopoulos, Appl. Phys. Lett. 86, 163902 (2005). 14) A. Narazaki, A. Oyane, S. Komuro, R. Kurosaki, T. Kameyama, I. Sakamaki, H. Araki, H. Miyaji, Opt. Mater. Express 9, 2807-2816 (2019). 15) A. Narazaki, A. Oyane, H. Miyaji, Applied Sciences 10, 7984 (2020). 16) 宮治裕史, 大矢根綾子, 奈良崎愛子, NEW GLASS 36, 15-17 (2021). デリバリーにレーザー転写技術を活用・挑戦し,社会課題解決に少しでも貢献できればと考えている. 本研究に多大なご協力をいただいた多くの共同研究者皆様に,謝意を表します.特に,タンパク質担持膜の調製・評価にあたりご尽力いただいた,産総研 大矢根綾子博士,北海道大学 宮治裕史先生に,また金属ナノ粒子のレーザー転写にあたり先進的なフェムト秒レーザー転写システムを構築いただいた,大阪大学 中田芳樹先生に心より謝意を表します.本研究の実施にあたり,公益財団法人天田財団より重点研究開発助成B(AF-2017202)を賜りました.ここに深甚なる謝意を表します. 謝■辞 参考文献 - 79 -
元のページ ../index.html#81