図5■光スタンプレーザー転写(LIFTOP)法のコンセプトと金属薄膜(Ag, 厚さ200 nm)への適用例. そこで我々は,ガラスの様な硬い表面を有する部材から人間の歯のような凹凸のある表面への“自在な膜転写”の実現を目指し,光スタンプレーザー転写(Laser-Induced Forward Transfer with OPtical stamp, LIFTOP)法を開発した(図5) [5,15,16].LIFTOP法では,機能性薄膜の高品位転写を実現するため,転写堆積時のドナーとレシーバーの密着性を高め,さらに衝撃を吸収できるポリジメチルシロキサン(polydimethylsiloxane, PDMS)のような樹脂で表面コートした光スタンプを利用する.最初に,光スタンプをドナーにコンタクトさせる(図5上段).その後,1段目の転写プロセスとして,ドナーの微細パターンを光スタンプ表面に転写する(中段).2階目の転写プロセスでは,光スタンプ表面に堆積させたドナーの微細パターンを最終レシーバーに転写する(下段).シンプルな手法であるが,その効果は大きく,通常は転写が難しい硬い表面を有するPETやガラス基板についても,転写堆積可能である.例えば,本手法をAg金属膜に適用した結果を図5に示すが,LIFTOP法の2段階転写を経て,Ag膜をガラス表面に微細パターン転写した. 今回は,天田財団平成29年度重点研究開発助成B課題研究 AF-2017202「早期治癒を支援するレーザー生理活性コーティング技術開発」としてご支援いただいた中で研究開発を実施した,生理活性タンパク質担持リン酸カルシウム膜のLIFTOP法を基盤としたレーザー転写技術について紹介する。 ■・■■新たな歯周病治療法を目指した医工連携■日本の成人の約8割が罹患しているといわれる歯周病治療では,歯周ポケット周囲の感染部を除去後,ぺリオドンタルアタッチメントの再形成を試みる.しかし,歯周病に罹患した歯は,本来の歯に比べ,ぺリオドンタルアタッチメントが再構築されにくく,再度の細菌感染・増殖により歯周病が再発し易い.そこで,歯面にヒトの歯や骨の主要無機成分であり優れた生体親和性と骨結合能を有するハイドロキシアパタイト(Hydroxy apatite, Ca10(PO4)6(OH)2 , 以下アパタイト)などのリン酸カルシウム膜をコーティングできれば,ぺリオドンタルアタッチメント形成を促進できる.さらに,細胞接着性や骨形成促進能などを有する生理活性タンパク質をアパタイトに担持できれば,ぺリオドンタルアタッチメント形成にかかる時間を短縮化,その結果術後の細菌感染リスクも低減できるため,患者のQOLに大きく貢献する.一方,従来のリン酸カルシウムコーティング技術は,非位置選択的であり,高温や長時間処理を必要とする.その中で,過飽和リン酸カルシウム溶液中でアパタイトを基材表面に析出させるバイオミメティック法[19]は,非熱コーティング技術であり,タンパク質などの熱に弱い生理活性物質も高い生理活性を保持した状態で膜中に担持できる.しかしソフトプロセスであるがゆえ数百ナノメートルからミクロン厚の膜形成に数時間かかる.このような背景のもと,我々産総研と北大歯学部グループでは,生理活性タンパク質担持リン酸カルシウム膜のレーザー転写技術開発に取り組んでいる[14-16]. ■・ ■生理活性タンパク質担持リン酸カルシウムのレーザー転写■■レーザー転写用ドナー膜は,タンパク質の失活なく担持させる必要があるため,ソフトな溶液プロセスであるバイオミメティック法を利用した.フィブロネクチン(fibronectin, 以下Fn)は,細胞接着性タンパク質の一種であり,細胞の接着・伸展を促進する機能を有する.このFnを担持させたリン酸カルシム膜(以後,Fn-CaP)を光スタンプ上に調製した.ただしFn-CaPは近赤外から紫外波長にわたり大きな光吸収を有しないため,レーザー光を効率的に吸収するカーボン薄膜を犠牲層として光スタンプとFn-CaPドナー膜の間に調製,失活を防ぐために凍結乾燥処理を実施した. ■LIFTOPセットアップを図6に示す.レーザー光源に波長1064 nmのDPSSナノ秒パルスレーザー(fwhm 40 ns, 10 kHz)を用い, 上記で形成したFn-CaP/C/光スタンプをレシーバーにコンタクトさせた状態で,光スタンプ側からレーザーパルスを照射,Fn-CaP膜をレシーバーへ転写した.ガルバノミラー/fθレンズを用いてビーム集光走査し,2次元パターニングについても検討した. 3.LIFTOP法のバイオ・医療応用:タンパク質担持マイクロチップへの適用例 - 77 -
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