FORM TECH REVIEW_vol30
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図12に同構造から得られたラマンスペクトルを示す。1350 cm-1,1580 cm-1,2700 cm-1付近において顕著なピークが観察された。これらのピークはそれぞれ黒鉛質炭素特有のD,G,2Dバンドに対応することから、グラフェン等の黒鉛質炭素の生成が示唆された。ただし、ラマンスペクトルの796 cm-1および972 cm-1付近にはβ-SiC特有のピークは観察されなかった。図11XRD分析結果(a) レーザパルス照射していない図12黒色構造から得られたラマンスペクトル図13PDMSの改質により得られた黒色構造のPDMS、(b)レーザパルス照射したPDMSTEM像(3)4.■■■■の黒鉛化を利用した圧力センサーの作製フェムト秒レーザパルス照射により作製した暗色構造の導電性評価のため、x方向に8 mm、y方向に2 mmの構造を作製した。図10に作製構造の電流-電圧特性を示す。電圧の増加に伴い、線形に電流は増加しその平均抵抗値は4.8 kΩであった。この結果より、レーザパルス照射したPDMSが導電性構造に改質されたことが示された。XRDとラマンスペクトルが示す結果の相違は、透過型電子顕微鏡(Transmission electron microscopy、TEM)による作製構造の観察から説明できる。図13に示すように50 nm程度の円形の構造および均一な格子縞が観察された。格子縞間隔はd=0.25 nmであり,これはβ-SiCの(111)面に対応する。すなわち,観察された50 nm程度の単結晶はβ-SiCであることが確認された。更にβ-SiC結晶の周囲においては別の格子縞も観察される。その格子縞間隔はd=0.34 nmであり,層状の黒鉛質炭素の(002)面に対応する。以上より、β-SiCを覆うように存在する炭素構造により励起光が吸収されたためにラマンスペクトルではβ-SiC特有のピークが確認できなかったと考えられる。暗色構造を構成する物質を同定するためにX線回折(X-ray diffraction、XRD) 分析を行った。図11(a)にフェムト秒レーザパルス照射していないPDMSのXRDパターンを、図11(b)にフェムト秒レーザパルス照射したPDMSのXRDパターンを示す。レーザパルス照射していないPDMSについては、目立った回折ピークは観察されなかった。一方で、フェムト秒レーザパルス照射したPDMSについては、2θ= 36°、60°、72°の位置に回折ピークが観察された。これらの回折ピークは、結晶質であるβ-SiCの回折面(111)、(220)、(311) に対応することから、SiCが生成したことが示された。著者らは、前述したPDMSを前駆体とする構造の黒鉛質炭素の導電性に着目し、同構造を用いた圧力センサーの作製を行った(4)。図14に作製した微小センサーと、センサーに圧力を加えた際の抵抗値変化を示す。センサーに圧力を加えた時のみ抵抗値が増加し、圧抵抗特性を示した。また、圧力の大きさに伴い抵抗値の変化量は線形に増大した。柔軟性が高い材料では相対的に変位が大きくなるため、同構造の圧力への高い感度は前駆体のPDMSの柔軟性に起因すると考えられる。また、センサーのフレキシブルデバイスとしての可能性を示すため、指輪型のデバイスを作製して心拍モニタリングを試みた(図15)。センサーを第二指に設置したところセンサーの抵抗値は周期的に変化し、動脈のパルス波形が観測されたていることが分かる。パルス波形より、Pre-Exerciseでは1分間の心拍数が約85 bpmであることが示される。これは健常な20代男性の心拍数として平均- 73 -

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