*東海大学 教授人を育て、知を拓き、未来を創るという使命の下、天田財団の塑性加工・レーザ加工に関する研究に関わる助成は、新たな科学技術の創出と当該分野の基盤を確固としたものにして学術・学界の進展を促してきました。天田財団の研究助成制度は充実しており、重点研究・一般研究ともに、素晴らしい成果が企業にも還元しておりますことは枚挙にいとまがありません。 奨励研究や国際学会活動の補助も若手研究者の研究活動を支援し、我が国のレーザ関係の研究開発を担う上で大きな役割を担うところまで発展したといえます。 いわば、国の目指すイノベーションの好循環すなわち 知の好循環と資金の好循環が民間の財団を介しても十分に創出されたといえるでしょう。改めて、財団を支える皆様のご協力に感謝する次第です。さて、人工知能AIが近年、ずいぶんとクローズアップされていますが、コンピューターがボードゲームで人と対戦して人に勝てることを証明したのが1950年代、あらゆるタスクを人と同じレベルで実行できるようになるとの期待が膨らんだ割には、幾多の冬の時代を抜け70年かけてようやく世に浸潤してきたとも言えます。 振り返ると、AIに比べて10年遅れて1960年に世に出てきたレーザも、発明60年を過ぎました。 「60にして、耳に従う・・・」ではありませんが、レーザはどのような社会的課題にも対応するような柔軟さが出ているかもしれません。 最近、「量子技術」なる語句を新聞や雑誌の紙面でずいぶん多く見かけるようになりました。 レーザプロセッシング技術も、このような量子技術の一翼を担うもので、研究への投資は、次の社会を築くべくその中心に据えられようとしています。「量子・・」といえば、ある意味隔絶された特殊な学界だけで探求が進んでいたようにも思われがちですが、レーザは意外にもAIより地道に社会に浸透してきていて、潜んでいた学界の知的資産は、時代時代に表舞台に出て社会課題を解決してきました。 製造・医療・社会インフラ整備などの分野でどこにでもレーザを利用した装置が入り込んで活躍していることは、読者のどなたもがお認めになることでしょう。ご存じのようにレーザは自然界には存在しない不思議な特徴を持つ電磁波で、その優れたエネルギー集束など空間特性や時間の制御性を利用して、 レーザプロセッシング技術は、時に高度な「ハサミ」、また、逆に「接合剤」として、さらには、新たな機能を有する材料の「表面修飾・表面加工」に幅広く応用されてきました。 本特集では、レーザプロセッシング分野の助成研究成果報告書から「微細表層レーザ加工」に関わるご研究課題を選定し、研究者の皆様にそれらの成果と共に最新の情報と合わせて『FORM TECH REVIEW』への論文執筆をお願いしました。読者の皆さんは、「微細表層レーザ加工」というテーマからは、「表面修飾・加工」が中心とご想像されるかもしれません。 確かに表面の加工ではあるかもしれませんが、微細レーザ加工分野でめざましい展開が見られる「原子・分子規模の切断・接合プロセス技術」も包含しています。 材料の接合と切断を主体とする研究では、しばしばミクロン程度の組織解析がなされますが、最近の研究では、積極的に化合物をデザインして利用するレーザプロセッシングを応用して「ナノ切断・接合」技術や「ナノ粒子修飾」プロセスを通して、材料表面上の分子設計をするところまでに及ぶ技術の研究にも関わります。 微細レーザ加工研究では、ナノ構造デザインによる母材の機能発現と応用研究が展開しています。ミリメータからナノメータのレベルで表層構造の自由な設計がレーザプロセッシング技術を利用して行われ、ここ数年、天田財団の助成でも、物理学・化学分野の研究者ばかりでなく、塑性加工工学・機械工学・電気電子工学などの分野の研究者を横断して進められてきました。 これらの成果が、新たな材料接着技術や、トライボロジーを含む潤滑技術、高い熱伝導技術、太陽電池等の半導体電子材料製造や触媒生成技術、あるいは人体になじむ材料の創成などに大きく波及しCarbon Neutralを目指す社会や持続発展可能な社会の礎を築くことに貢献するでしょう。- 63 -説苑「微細表層レーザ加工」研究が拓く未来山口 滋*S. Yamaguchi
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