図6■空冷材および水冷材の各種変形条件における絞り. ■試験 については別の研究で報告4)したものを引用している.本研究の狙いは温間域の試験にある.微細組織を有する空冷材,水冷材はともに室温において,750MPa以上の高強度を示すが,比較的早期に最大応力に達し,10%程度の局部伸びを示して破断する.500℃において試験した結果,両者は520MPa程度の引張強さをごく初期に示したのちに大きな局部伸びを示して破断した.破断位置はすべて標線間であった.大きな局部伸びは大きな絞りを示唆しており,試験素材が良好な加工性を有していることを示唆している.しかし,水冷材と空冷材の違いは,準静的試験条件における応力ひずみ曲線から読み取ることは困難であった. ■高速変形では,慣性力が無視できなくなり,自由表面や試料/冶具間での変位の反射が生じる.その状況を示したデータが図4である.水冷材および空冷材に対して,650■mm/secにて変位を与えた際の試験片の変位-時間曲線(a), およびみかけの公称応力-時間曲線である.時間の増大に伴い変位は単調な増加を示し,0.5mm程度の変位(公称ひずみ換算で2.5%)を示した時点で打撃速度である650 mm/secに達した.図中(b)に示した見かけの公称応力は荷重を平行部初期断面積で割って求めたものであるが,試験片材質のよらずいずれも振動を示している.振動周期は1msec程度であった.振幅は引張速度の増大に伴い大きくなる傾向が見られ,今回の試験機系ではここで示した変形速度を650 mm/secとする条件が,荷重の評価が可能である最大の変形速度であった.こうした弾性変形波の顕在化は,特に引張試験片のゲージ部の大きさが大きいほど大きくなることが知られている2).これらのデータから求めた公称応力ー公称ひずみ曲線を図5に示す.低速試験結果と同様に温間高速変形とした場合であっても,その強度レベルには組織の差違が反映し難いことがわかる. 謝■辞■参考文献 ■一方で,延性に関してはこれまでに報告のない結果が得られた.図6は減面率と変形速度の関係を示している.図中に既報4)の室温試験結果に今回得られた500℃における試験結果をプロットしている.室温試験結果に関して言えば,組織の違いによらず,変形速度が特に100 mm/sec以上になると絞りは減少する.同様の結果が500℃における今回の結果でも確認できた.これらの特徴は,加工発熱の観点から説明することができる.一般に高速変形では加工発熱の消散する時間的余裕がなく,試験片が加熱する5).炭素鋼の場合,青熱脆性域において延性の増大に反して絞りの低下が生じる.そのため,高速変形に伴う試験温度の高温化に伴い,絞りの低下が生じたものと考えられる.特に温間域高速変形では水冷材と比べて空冷材のほうが絞りが小さくなる傾向も見て取れた.この原因については現時点では明らかとはなっていない.少なくとも炭化物の存在密度が小さい弱い部分が局所的にも存在すると,特に温間加工性に対しては不良となる可能性を示唆しているものと思われる. 4.まとめ ■本研究では,ホプキンソンバー法をベースとし,電気炉,冷却装置およびレーザー変位計を組み合わせて高温高速変形試験が可能な試験機系を構築した. ■得られた試験機系を用いて丸棒試験片を用いて高速高温引張試験を行い,絞りを評価することにより微細粒組織を有する炭素鋼の温間加工における組織と加工性の相関について考察した.炭化物の分布が金属組織スケールで不均一であると高速変形時に絞りが大きく低下するという組織-特性間の相関を得ることができた. ■本研究は、天田財団の一般研究開発助成(塑性加工)を受けることにより遂行することができた.衷心より謝意を表する. ■■ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■■■ff ■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ff■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■■■■■■■■ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ff ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ff ■■■■■■■■■■■■■ ■■■)土田紀之,友田陽,長井寿,鉄と鋼,■■■ff ■■■■■■■■■■■■- 59 -
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