3・3 引張強度特性に及ぼすスポット溶接部の硬さ分( ,H-STΔ )aPM V H HW-STΔ布の影響 Fig. 11. Maximum stress difference between base and hydrogen charged samples (ΔTS-H), base and spot-welded and hydrogen charged samples (ΔTS-WH) of TM steel. TM鋼,およびHS1に水素チャージを行うと,TM鋼では水素は主に旧オーステナイト粒界やラス境界19),転位上20),残留オーステナイト中,または残留オーステナイトγR /マルテンサイト境界21)に,HS1鋼ではTM鋼と同様に旧オーステナイト粒界やラス境界,転位上のほかに,マルテンサイト/セメンタイト 境界22)にトラップしたと考えられる。オーステナイト(fcc)とマルテンサイト(bcc)の水素固溶量の差23)から,TM鋼 は引張試験中の残留オーステナイトγRのマルテンサイト変態によって変態したマルテンサイト近傍の水素濃度が上昇し,き裂が発生する16)。しかし,TM鋼の残留オーステナイトγRは微細均一に存在し,周囲を硬質のマルテンサイト に囲まれていたことにより塑性ひずみに対する安定性が高かったことから,残留オーステナイトγRのひずみ誘起,および応力誘起変態が抑制されたこと,および変形早期に発生したき裂のサイズは小さく,すぐにき裂進展が抑制されたことから,TM鋼はHS1鋼よりも強度の低下が小さかったと考えられた。また,水素チャージ後のHS7鋼母材試験片は TS-H=507 MPaで,HS7鋼母材試験片のTS=559 MPaと比べ,同等の強度を得られ,母材部で破断した。これは,1200 MPa以下の鋼が水素の影響を受けにくいことに起因する(Fig. 10, Fig. 11)。水素チャージ後のTM鋼母材試験片のTS-H=1126 MPaと,TM鋼溶接試験片のTS-W=1450 MPaは,HS1 鋼のそれと比べ,同等の強度を示した(Fig. 10)。 Fig. 12にTM鋼のスポット溶接部断面を示す。また, Fig. 13にTM鋼,Fig. 14にHS1鋼,およびFig. 15にHS7鋼の溶接部断面のビッカース硬さHV分布をそれぞれ示す。 10008006004002000ΔTS-HHS1-744TM-406BaseΔTS-WHHS1-577TM-521HS7-52HS7-24WeldedSteel Fig. 13. Vickers hardness (HV) distribution for TM steel13). Fig. 13からFig. 15の各鋼のスポット溶接部の硬さ分布より,TM鋼の母材は,500 HV~600 HV,HS1鋼の母材は400 HV~500 HVを有し,溶融部の硬さも母材の硬さとほとんど変わらなかった。また,TM鋼,HS1鋼ともHAZ部の硬さは母材よりも低下したが,TM鋼のHAZ部の硬さ低下量は,HS1鋼のHAZ部の硬さの低下量ほど大きくなかった。 一方,HS7鋼では,母材の硬さは200 HV程度であったが,スポット溶接の溶融部,およびHAZ部の硬さは約500 HVまで上昇し,母材に比較してかなり高くなった。TM鋼,およびHS1鋼は,HAZ部の硬さが母材,および溶融部に比較して低下したことにより,このHAZ部が切欠きと同様の作用を示し,HAZ部でき裂が発生したため,母材試験片に比較して破断伸びが低下したと考えられた。一方,HS7鋼の母材部硬さは200 HV,溶融部の硬さが500 HVであることから,HAZ部は切欠きとして作用せず,溶融部やHAZ 部ではなく母材破断したため,破断伸びの大きな低下は抑制されたと考えられる。TM鋼において,スポット溶接の HAZ軟化は抑制されないが,引張試験中の残留オーステナイトγRのTRIP効果によってHAZ軟化した部分を強化してHAZ部でのき裂の発生を遅らせたため,TS -W=1450 MPaの高い溶接試験片の最大応力を発現したと考えられる(Table 3,Table 4)。 Base metal 800700600500400300200100-10- 51 -Fusion zone Corona bond -5x (mm)HAZ 1 mm Fig. 12. Cross-sectional image of spot-welded TM steel. TM 1005
元のページ ../index.html#53