FORM TECH REVIEW_vol30
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1.緒言 *長野工業高等専門学校 機械工学科 教授**東北大学 金属材料研究所 助教キーワード: 引張特性,スポット溶接試験片,TRIP型マルテンサイト鋼,ホットスタンプ用鋼,水素脆性 近年,軽量化ならびに衝突安全性の向上を目指して自動車用鋼板の超高強度化が進められている。とくに,自動車 の前後のドアの間,後部ドアの付け根にある柱であるセンターピラー(Bピラー),およびバンパービーム等で1470 MPa以上の強度を実現するためにホットスタンプ用鋼(hot stamped steel : HS鋼)が使われている1)。それに対して,優れた強度・延性バランスを有するTRIP2)型マルテンサイト鋼(TRIP-aided martensitic steel : TM鋼)3,4) は1470 MPa以上の超高強度鋼板のニーズの高まりに対応する材料として期待されており,様々な研究が報告されている5)。 たとえば,Senumaらは超高強度マルテンサイト鋼の遅れ破壊感受性に及ぼすMn,Nb,Ti,Mo等の成分の影響について検討している6–9)。そこでは,板厚1 mmの試験片のノッチ部に最大応力が1.3 GPaになるように負荷した状態でチオシアン酸アンモニウムNH4SCN水溶液に浸漬して, 浸漬開始から破断までの時間を測定している。Yamazakiら10) は,U字曲げ試料をボルトで締め付け,負荷をかけた状態で水素の陰極チャージを行った遅れ破壊試験の結果, U字曲げをする前の試料の残留オーステナイトγRが多いほど遅れ破壊感受性が高まることを報告している。実用部材を模擬した自動車用高強度鋼板の水素脆化特性評価のため,1470 MPa級TM鋼板のU曲げ―陰極チャージ試験が行われ,短冊状試験片を曲げ半径3~15 mmでU曲げ加工をして塑性ひずみをU曲げ頂点部に0~1000 MPaの応力をそれぞれ付与し,このU曲げ試験片に水素チャージ(電解チャージ,3 % NaCl +5 g/Lチオシアン酸アンモニウム NH4SCN水溶液,電流密度10 A/m2 ,25 ℃)を行い,水素脆化試験を行っている。 また,引張強さ1470 MPa級の焼戻しマルテンサイト鋼 において,Si添加量を変えることで水素添加により擬へき開破壊主体であるもとの粒界破壊主体である鋼材を用意し,円周切欠き試験片の破壊強さと破面形態に及ぼす引張速度,水素量,温度の影響が検討されている11)。自動車の側面衝突評価では,車体側面のBピラーのフランジが鋼板面内で引張りを受ける変形モードになることがあるため,スポット溶接した引張試験片の強度と伸びに及ぼす熱長野工業高等専門学校・機械工学科 東北大学金属材料研究所 教授 長坂 明彦 助教 北條 智彦 (平成27年度 一般研究開発助成 AF-2015040) キーワード:引張特性,スポット溶接試験片,TRIP型マルテンサイト鋼,ホットスタンプ用鋼,水素脆性影響部 (HAZ)軟化の影響が検討されている12)。しかしながら,スポット溶接したTM鋼の引張特性における耐水素脆化特性に関する研究報告十分に行われていない。 そこで,本研究では超高強度鋼板における自動車の側面 衝突の際に起こるスポット溶接近傍のホットスタンプ成形後の変形能(延性やじん性)を改善するため,自動車用超高張力鋼板の引張特性に及ぼすスポット溶接,および水素の影響を明らかにすることを目的として,スポット溶接したTM 鋼板の水素脆化特性を調査した。 2.実験方法 微細組織観察には,SEMを用いて行った。残留オーステナイトの体積率 fγ(vol%)はCuKα線によって測定された α-Fe 200,α-Fe 211,γ-Fe 200,γ-Fe 220,γ-Fe 311回折面ピークの積分強度により測定した14)。また,残留オーステナイトγR中の炭素濃度Cγ(mass%)はCuKα線によって測定したγ-Fe 200,γ-Fe 220,およびγ-Fe 311回折ピーク角度から求めた格子定数の平均値aγ(×10-10 m)を次式(1)15)に代入して求めた。 Table 1に供試鋼の化学組成を示す。供試鋼にはSi添加量の異なる化学組成を有する冷延鋼板(板厚t=1.4 mm)を用いた(Table 1)。供試鋼は粗圧延(t=60→t=30 mm), 仕上げ圧延(t=30→t=4 mm),酸洗後冷間圧延(t=4→t=1.4 mm)をして作製した。TM 鋼は,900 ℃,1200 sのオーステナイト化後,250 ℃,200 sの等温変態処理を施した。また,比較として,900 ℃,240 s加熱,金型保持15 sのダイクエンチをした鋼とその後,700 ℃,1 h空冷の焼戻しを施した2種類の鋼板を作製した。以後,ダイクエンチままのホットスタンプ材をHS1鋼,HS1鋼に焼戻しを施した材をHS7鋼と呼ぶこととする。 Fig.1にスポット溶接引張試験片を示す13)。引張試験片の平行部の中央にタブ材をスポット溶接し,スポット溶接試験片を作製した。Table 2にスポット溶接条件を示す13)。スポット溶接試験には,定置式直流インバータスポット溶接機(ダイヘン,SLAI 65-601(S-1))を用いた。電極にはDR 型,元径16 mm,先端径6 mm,先端R40 mmの Cu-Cr合金を用い,加圧力3.0 kN,通電時間333 ms,溶接電流Iは6.5 kAで行った。 - 46 -A. NagasakaT. Hojyo超高強度TRIP鋼板のスポット溶接および 超高強度TRIP鋼板のスポット溶接およびプレス加工に及ぼす遅れ破壊疲労特性 プレス加工に及ぼす遅れ破壊疲労特性長坂 明彦* 北條 智彦**Review

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