1.研究の背景と目的2.純鉄単結晶の静的再結晶機構の検討■■■■■*東京工業大学工学院 教授■キーワード:組織制御加工,微細塑性加工,鉄単結晶,材料特性,静的再結晶近年の社会的課題であるエネルギー,環境,資源などの問題に対応するためには,素材の高強化や高機能化が重要な技術的課題となっている。このためには鉄鋼材料などの汎用の材料の特性を飛躍的に向上させる必要がある。しかし合金化による材料特性の改良は,金属元素の供給の安定性やリサイクル性に問題が生じ易いという課題を抱えている。合金化に依らない金属材料の改質方法として結晶組織制御が知られている。その一例として超微細粒鋼や方向性電磁鋼板などが挙げられる。しかしこれまでの結晶組織制御技術は板材など一次素材の製造には利用されているが,複雑形状を有する機械部品には適用できない。機械部品の組織と材料特性を局所的に自在に変化させることが出来れば,機械部品の軽量化,設計自由度の拡大,生産コストの低減などに大きな効果が期待できる。しかし塑性加工によるひずみが組織変化に及ぼす機構はまだ不明な点が多く,経験的データの蓄積に基づく回帰的予測の範囲を超えることは困難である。そこで著者らは塑性ひずみが鉄鋼材料の組織変化に及ぼす影響を定量的に解明し,任意のひずみ履歴において生じる結晶組織を予測することを目指している。本報では,合金成分を含まない純鉄の静的再結晶を対象とし,再結晶核発生,粒成長に及ぼす塑性変形の影響に関する検討について報告する。結晶内に蓄積された塑性ひずみがどの様に再結晶に影響するか定量的に検討するために,純鉄単結晶を用いて,正確な塑性ひずみを与え,熱処理により生じる再結晶過程を分析した。純鉄単結晶の丸棒(φ■■■×■■㎜)を■■■■にて厚さ■■■㎜に3枚にスライスし,次いで図1のような引張試験片形状に加工した。これにより同じ結晶方位を有する3枚の試験片を作製した。また切り出し方向を変えることにより3通りの異なる結晶方位の試験片を作製した。専用の精密引張試験装置で引張試験を行い,その後,非酸化雰囲気で■■■℃で所定の時間焼鈍した。変形前後および焼鈍後の結晶組織を■■■■で分析した。東京工業大学工学院教授吉野雅彦(一般研究開発助成)図1実験及びシミュレーションに用いた試験片形状図2に引張試験をした後の試験片の■■■マップの例を示す。試験片の元の結晶方位によっては斜め方向の剪断変形が見られ,結晶方位分布に偏りが生じていることが判る。また図3に3種の結晶方位の試験片の変形後の■■■値分布を示す。試験片の初期結晶方位によって■■■値の発達が大きく異なることが判る。■■■値は転位密度に関係あるパラメータと言われおり,この結果より変形による転位の蓄積は結晶方位に依存することが判る。その後の熱処理により生じる再結晶核の発生,粒成長は結晶内に蓄積された転位のエネルギーが駆動力になると考えられており,静的再結晶過程も初期結晶方位に影響されることを示唆している。図4に■■■℃で繰り返し熱処理したときの静的再結晶の例を示す。この例では約■■分の焼鈍後に試験片の縁部分から再結晶核が発生し,成長していることが判る。発生した再結晶粒の結晶方位は母材の結晶方位と全く異なる方位を有している。また再結晶核の発生位置は■■■値の高い部分(図3■)と必ずしも一致していない。試験片は約■■■㎜の厚さがあり,内部から発生している可能性がある。図2引張試験をした後の試験片の■■■マップキーワード:組織制御加工,微細塑性加工,鉄単結晶,材料特性,静的再結晶- 10 -M. Yoshino純鉄の静的再結晶組織に及ぼす塑性ひずみの影響純鉄の静的再結晶組織に及ぼす塑性ひずみの影響吉野 雅彦*Report
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