FORM TECH REVIEWvol29
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*熊本大学 先進マグネシウム国際研究センター センター長・教授航空機や自動車等の輸送機器の高性能化、省エネルギー化、CO₂排出抑制を図るためには、軽くて強い構造材料が必要であることから、実用金属で最も軽量であるマグネシウムを主成分とするマグネシウム合金が、軽量構造材料として注目されています。特に最近では、米連邦航空局(FAA)が民間航空機のマグネシウム使用禁止令を解除しており、また、体内埋込の生体吸収性医療機器材料としてマグネシウム合金に注目が集まっており、マグネシウム新時代が到来していると言えます。しかしながら、マグネシウム合金は、①機械的強度がアルミニウム合金に比べて劣っており、②耐食性が悪く、③発火し易くて一旦火が付くと消火が困難です。低強度という問題については、合金設計によって■■■■■■■不燃マグネシウム合金(C36型Mg-Al-Ca系合金)や■■■■■■■耐熱マグネシウム合金(LPSO型Mg-Zn-Y系合金)などの新しい高強度合金が開発されるとともに、急速凝固粉末冶金法や巨大ひずみ加工などのプロセス設計によっても高強度化が図られています。また、低耐食性という問題については、Fe, Cu, Ni等の不純物濃度を数ppmに低減させることにより母材の耐食性向上が図られているとともに、表面処理・表面コーティング技術も進歩しています。さらに、燃え易いという問題については、Caや希土類金属などの緻密な酸化皮膜を形成する元素の添加によって発火温度の向上が図られています。特に、純マグネシウムの沸点を超えるような発火温度を持つ■■■■■■■不燃マグネシウム合金が開発されるとともに、難燃性を持つ■■■■■■■耐熱マグネシウム合金の不燃化も達成されています。このように、マグネシウム合金の材料特性における三大課題は解決されつつあり、マグネシウム合金の研究も材料創製から成形加工の段階に展開していると言えます。2019FTRの特集テーマが「マグネシウム合金の成形技術と特性」であるのはまさに時宜にかなった企画であると言えます。マグネシウム合金にとって塑性加工は、成形加工のみならず材料創製においても重要な技術です。マグネシウムは、hcp構造を持ち、異方性が強く、すべり系も限定されるために、加工が難しい金属です。このため、加工速度もアルミニウム合金に比べて一桁低くする必要があり、また、比熱が小さくて、熱しやすく冷めやすいという特徴を持っているので、加工発熱による温度上昇にも注意が必要であり、マグネシウム合金ならではの成形加工技術が必要となっています。一方、材料創製では、組織制御のみならず材料強化や粉末固化成形においても塑性加工技術が重要となっています。組織制御では、動的再結晶を利用した組織制御に塑性加工が利用されます。特に、マグネシウム合金の場合には結晶の配向や集合組織の形成に注意が必要です。また、塑性加工による材料強化では、加工硬化の他に動的再結晶や巨大ひずみ加工等による結晶粒微細化によって材料強化が図られています。最近では、■■■■■■■耐熱マグネシウム合金において、「キンク強化」という新しい材料強化法が半世紀ぶりに見い出されました。キンクを導入するために塑性加工が利用されるので、塑性加工技術が重要となっています。さらに、急速凝固粉末冶金法を用いた材料創製では、高温での原子拡散を利用した通常の焼結法を用いることができず、原子拡散を抑制した固化成形法が用いられます。固化成形では、押出しなどの塑性加工法が利用されるので、ここでも塑性加工技術が重要となっています。このように、マグネシウム合金の成形加工と材料創製において塑性加工は重要な技術であり、実験と計算科学ならびに計測・解析技術の連携によって塑性加工技術がさらに高度化されることを期待しています。天田財団は、これまで塑性加工の分野に対する研究助成を通じて多くの研究者を支援し、多くの有益な成果を公表してきました。私も研究費が少なくて苦しい時期に支援をしていただき、研究を軌道に乗せることができました。今後も当財団の研究助成を積極的に活用して、新たな成果を創出して頂きたいと思っています。当財団の公益的事業の推進に一層のご支援を頂ければ幸甚です。- 7 -説苑塑性加工によるマグネシウム合金の成形加工と材料創製への期待河村 能人*Y. Kawamura

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