■ 図8■FROG法での測定結果を解析することによって得られた、非線形効果を用いた増幅後のパルス波形。 ■ ■■■アクリル板への照射テスト■図9に500 mWの出力で1秒間照射した際の加工跡の写真および3次元測定結果を示す。中心部に径40 μmのスポットが見られるほか、周囲に径400 μmの膨らみが観察された。これは、中心部がレーザーによる窪みであり、 図7■励起光強度を上げていった際のスペクトルの変- 69 - 増幅用ファイバーのコアに直接入射してコア励起を行うことができれば、反転分布を強く形成できると期待できる。そこで、ビーム品質のよいシングルモード出力の波長1.6 μmの励起光源を用意してコア励起を試みた。 また、ゲインナロウイングへの対抗策として、ファイバー内での非線形効果を利用したスペクトル拡張を試みた。具体的には、ストレッチャーおよびコンプレッサーを取り除いてチャープ・パルス増幅をやめることで、増幅ファイバーでのパルス幅がある程度短くなりピーク強度が高くなるようにした。これにより、増幅ファイバー内において自己位相変調などの非線形効果を起こさせ、それを利用することでスペクトルの拡張を試みた。 このような系において増幅を行った際の、スペクトルの変化の様子を図7に示す。励起パワーを上げるにつれてスペクトルが広がっていく様子が明確に見て取れる。これは、増幅ファイバー内で自己位相変調が起きたためと考えられる。これらのパルス形状をFROG法で測定していくと、スペクトルが広がるにつれ、パルス幅が短くなっていくことがわかった。励起光強度が13 Wの時の出力をFROG法によって測定し、それを解析することによって得られたパルス波形を図8に示す。このパルスの時間幅は48フェムト秒となっており、レーザー発振器からの出力と同程度の時間幅を持つパルスが得られていることがわかる。また、この時の出力パワーは2.5 Wであった。特筆すべき点として、これらの測定においてコンプレッサーを使用していないことが挙げられる。すなわち、増幅ファイバーから直接超短パルスが出力されていることになる。このため、コンプレッサーによるロスがないのはもちろん、光学系も単純になり、チャープ・パルス増幅システムよりも取り扱いがより簡単なシステムとなっていると言える。出力パワー自体はチャープ・パルス増幅システムのものよりもやや劣るが、パルス幅は約1/3となっており、ピークパワーはより高くすることができた。 化の様子。 2.3節のレーザーシステムは繰り返し周波数が高い一方、開発したレーザーシステムの加工応用に向けたテストとして、アクリル板をサンプルとしてレーザー光を照射した。アクリル板は可視光に対して透明だが、波長2 μm近傍では比較的吸収率が高く、低いパワーで加工が可能だと期待される。一方、CO2レーザーと比べると吸収が少ないが、その分周囲への熱損傷が少ない加工ができると期待される。 周辺はレーザーが吸収された際の熱によって膨張したものと考えられる。この結果から、より精密な加工には、照射パワーや照射時間を減らすことで熱の影響を低減させる必要があることがわかる。加工条件などの詳細なパラメーターを最適化していくことによって、より効率がよく、より精密な加工が可能になると期待される。 ■ ■■■パルスエネルギーの増強■パルス一つあたりのエネルギーは低いため、集光した際の強度も比較的低い。このパルスエネルギーを引き上げることができれば、集光した際の強度を向上させ、非線形過程を効果的に利用することが可能となる。 パルスエネルギーをさらに増強するための最も単純な手法は、増幅器をもう一段追加することであるが、そのためには非常に高出力な励起光源が必要となる。より手軽に高いパルスエネルギーを得るためには、パルス列の繰り返し周波数を減らして増幅するのが効果的である。すなわち、パルスを一旦間引き、残ったパルスのみを増幅することで、平均パワーをあまり上昇させることなくパルスエネルギーを引き上げることが可能となる。
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