FORM TECH REVIEWvol29
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■ 図5■FROG測定によって得られた増幅後のパルス波形。 ■ 図6■ZBLANファイバーと石英ファイバーを用いたも超短パルスとなっていることがわかる。また、圧縮後の平均パワーは3.9 Wとなっているが、これはパルスエネルギーにして58 nJに相当する。 ■ ■ ■ZBLANファイバーによる高効率増幅■英ファイバーと交換して、同様の増幅実験を行った。その結果、図6のように、石英ファイバーを用いた場合、ZBLANファイバーを用いた場合に比べてはるかに増幅効率が低くなることがわかった。 過去の石英ファイバーを用いた実験の文献値を調べると、文献によって効率が大きく異なっており、増幅器に入れる前のシード光の強度に効率が強く依存することが予想されたため、シード光の出力を強くして再度増幅実験を行うことにした。具体的には、シード光源をハイパワーのオシレーターに置き換えることで、増幅前のパワーを5倍程度に引き上げることができた。この高出力のシード光を用いた場合の結果(図6■強シード)を見ると、確かに増幅効率が向上していることがわかる。 これらの観察結果については、ZBLANと石英のフォノンエネルギーの違いで説明できる。ツリウム添加石英ファイバーにおいて、励起状態に上がった電子は、シード光を入れない状態ではマルチフォノン緩和または自然放射によって基底状態に戻ってくることになる。この際、石英は比較的フォノンエネルギーが大きいためマルチフォノン緩和が起きやすく、シード光を入射しない場合9割以上の電子がマルチフォノン緩和によって基底状態に戻ることになる。すると、シード光を入れた場合でもマルチフォノン緩和の影響が無視できず、誘導放出がマルチフォノン緩和との競合になるため、効率よく増幅するためにはシード光を強くする必要がある。また、マルチフォノン緩和が強場合の増幅効率の比較。 - 68 -ZBLANファイバーと石英ファイバーとで増幅効率がどのように異なるかを検証するための比較実験を行った。具体的には、増幅器に用いていたダブルクラッドZBLANファイバーを、同等のパラメーターを持つダブルクラッド石いために寿命が非常に短くなるので、反転分布を維持するために励起パワーも非常に強くする必要がある。すなわち、ツリウム添加石英ファイバーにおいて効率よく増幅するためには、シード光と励起光の両方を強くする必要があると言える。これに対し、ZBLANではフォノンエネルギーが小さいためマルチフォノン緩和の次数が高くなり、結果としてこの過程の起きる確率が著しく小さくなるため、実質的にマルチフォノン緩和を無視することができる。これは、反転分布の形成においては励起光強度が比較的低くても構わないことを意味し、誘導放出においてはシード光が弱くても構わないことを意味する。すなわち、ZBLANファイバーを用いた場合、シード光や励起光の強度が低くても効率よく増幅できると言える。ただし、本研究よりもはるかに高いパワー、たとえば数百ワットの励起光を用いた場合には、石英ファイバーの場合でも同等のスロープ効率が得られる。 以上の結果をまとめると、数ワット程度のパワーにおいては、ZBLANファイバーを用いることで非常に効率のよい増幅が可能になることがわかる。数ワットの出力は多くの応用にとって十分な出力であり、これらの応用にとってZBLANファイバーを用いた増幅が有力な選択肢となりうることを示せたと言える。 ■ ■■■増幅器内非線形効果を用いた超短パルス増幅■上記のチャープ・パルス増幅システムでは、増幅時にスペクトル幅が狭くなってしまい、短いパルス幅を維持したまま増幅するのが難しかった。この原因については2.1節でも述べたが、ゲインナロウイングおよびツリウムイオンによる吸収が考えられる。 ツリウムイオンによる再吸収を抑制するには、反転分布の形成度合いをより強くしてやる必要がある。このためには、ファイバーに励起光を強く吸収させる必要があるが、一般的なダブルクラッドファイバーを用いたクラッド励起ではこれを実現するのが難しい。これに対し、励起光を

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