FORM TECH REVIEWvol29
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*分子科学研究所 理化学研究所 特任教授2011年に内閣府よりとして公益認定を受けた公益財団法人天田財団は、1987年に現アマダホールディングスの創業者である天田勇氏の私有資産の寄附を基に設立された財団法人天田金属加工機械技術振興財団に遡ります。当初は、金属等の塑性加工分野における機械・加工システム技術に関する研究開発助成事業、並びにその普及啓発事業を開始し、2007年から助成分野をレーザプロセッシングへと拡大され、また2017年には30周年の節目を迎え、時代の変化にキャッチアップしながら現在に至っています。ところで何故レーザ加工なのか?ご存じの様に光はボーズ粒子であり、複数の光子が同じエネルギー状態を取れます。一方、可視の光子1個の等価的な温度は約30,000Kにも至るため、大量の光を何らかの操作によりスペクトル、時間、空間において限られた狭い領域に集めた場合、非常な高密度エネルギービームとなり、物質と強く相互作用し、その物質の極限状態を創りだすことができます。すなわち、切断や溶接です。さらに最近ではアブレーションによる非熱微細加工や衝撃波による表面改質、内部加工などもできます。1960年に発明されたレーザは、まさに光子の状態を揃える強力な装置で、単なる切断や接合を超えた興味深い加工装置となり得ます。そこで2019年度のレーザプロセッシング分野の助成公募では、プラスチック、セラミックス、複合材料等の材料も含む金属等のレーザプロセッシング利用した加工に必要な技術に関する重点研究開発助成の課題研究を以下の様に設定しました。・加工に及ぼすレーザの波長、パルス幅又はビーム整形の効果・高効率・高品質レーザ加工法の開発、又はシミュレーション・レーザ加工におけるプロセス現象の解明又はプロセスモニタリング・レーザ加工に対するOCT(光干渉診断法)技術の適用及び展開(キーホール深さ計測等含む)・レーザプロセッシング用の高品質集光光学系、スキャナー等のビーム走査・制御デバイスの開発・加工用レーザの開発・高出力レーザによる高速リモート加工・レーザプロセッシングの高性能・高度化のための全体装置開発・改良に必要な(或いは繋がる)技術(レーザ光源、ビームデリバリー、AI、及びIoT等を含む)・レーザ加工における安全技術の開発・半導体レーザ(青色レーザダイオードを含む)による金属の直接加工・3次元積層造形法の開発とプロセスの解析・評価・異種材料のレーザ溶接、又は接合・材料表面の改質・表面構造付与・表面(層)除去加工・業界で注目される先端材料のレーザプロセッシング・産業応用を目指した高強度ピコ秒・フェムト秒レーザプロセッシング・レーザプロセッシングの医用応用(レーザ治療は除く)これまでレーザが関わる加工分野の拡がりを反映し年々研究課題が増え、そして今年度は「加工用レーザの開発」にまで踏み込みました。実は1990年代までは日本のレーザ研究開発は世界的にも高いレベルにありました。しかしながら、2000年以降、放電管を主体としたレーザから広義の全固体レーザ(半導体レーザ、ファイバレーザも含めた半導体レーザー励起固体レーザ)へと流れが変わりました。当時は日本も固体レーザで高い水準にありましたが、主力は放電管励起であり、また固体媒質の発光中心はNd系でした。ところが、半導体レーザ励起になると、それまでは三準位であるため実用的なレーザとしては向いてないとされていたYb系の室温発振が容易となり、様相が変わったのです。実はYbではエネルギー構造が2つと単純であるため量子効率も高く、またファイバのように狭い領域に閉じ込めても消光も起き難く、効率的にレーザ光に変換されます。そのような事から現在ではNd系レーザを遥かに凌ぐ性能を実現しています。残念ながら日本はレーザ開発でそれまで- 63 -説苑レーザの開発と加工への応用展開平等 拓範*T. Taira

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