キーワード:結晶塑性有限要素法,マグネシウム合金板,材料パラメータ同定手法,Orowanの圧延理論 1.緒言■省資源及び省エネルギー化の推進に伴う循環型社会の構築が目指される今日において,軽量・高リサイクル性といった特徴を有するマグネシウム合金は次世代を担う構造用材料として重要な金属である.特に,板材に対する需要は高く,工業製品の用途に応じた板材製造のためには数値シミュレーションによる圧延工程の設計支援法,すなわち,板材の集合組織に関する発達予測手法を確立することが有効であると考えられる.また,シミュレーションによって予測された集合組織を有する仮想板材の機械的特性及び成形性評価が可能な解析システムを構築できれば,構造用材料としてのMg合金の実用化に向けた大きなツールとなり得る.これまで,圧延加工プロセスにおける集合組織の発達については,実験的研究による直接測定をもとに膨大なデータの蓄積がある.それに加えて,変形集合組織情報を定量的に予測できる結晶塑性有限要素法は,集合組織制御による新規材料創成のための有益な手法の一つとなる.しかしながら,正確な材料モデルの導入及びパラメータ値の決定ができなければ,その解析精度は大きく低下してしまう. 代表的な汎用Mg合金であるMg-Al-Zn系合金では,Alの添加量に応じて,巨視的な材料強度や耐食性が変化することが知られている.過度な添加量の増加は延性の著しい低下を招くことから,展伸材や鋳造材などの工業製品の用途に応じて添加量が調整されている.塑性加工への適用を目的とした板材については現在,材料強度と延性を概ね両立し,成形性の面で有利なAZ31Mg合金が主流である.しかしながら,AZ31Mg合金は材料強度・耐食性・表面処理性の面で,Al添加量が多い他のAZ系Mg合金よりも劣る.これらの特性がAZ31Mg合金よりも優れ,温間で適度な成形性を有するAZ61Mg合金の需要が今後高まると考えられる. 本研究では,はじめにMg合金用塑性加工解析システムの研究基盤を確立するため,結晶塑性理論を有効利用したMg合金用有限要素プログラムの開発を行う.AZ61Mg合金板を対象に,単軸材料試験による応力-ひずみ関係とLankford値の温度依存性について調査する.その実験結果から本塑性加工解析システムに用いる材料パラメータ値を同定し,材料モデル及びそのパラメータ560領域を解析対象とし,1領域の解像度は100 dpiに設定した.式(1)に示す体積一定則を用いることにより,式(2)に示すRD (x)方向とTD (y)方向の対数塑性ひずみから値の妥当性について検討する.次に,Orowanの圧延理論1)を用いて圧延材の板厚方向中心における各物質点のひずみ履歴を算出する.マクロひずみ履歴を本塑性加工解析システムに与えることにより,比較的簡易な数値計算手法を用いて実際の圧延工程を模擬した解析を行う.以上をもとに,熱間圧延工程における板材の集合組織の発達を題材に,本塑性加工解析システムの予測精度について検証を実施する. 2.実験方法 ■■■供試材及び単軸引張試験条件 単軸引張試験よって得られる真応力-対数ひずみ関係及びLankford値(以下,r値)-対数塑性ひずみ関係について調査を行う.Mg合金板の温度依存性を考慮し,本解析システムに用いる材料パラメータ値を決定する. 供試材として板厚2 mmのAZ61Mg合金板(権田金属工業株式会社)を用いた.引張試験片はJIS13号B試験片を基準として,平行部長手方向(RD方向)60 mm,その直角方向(TD方向)20 mmとした.実験には精密万能試験機(島津製作所 オートグラフAG-100kNX)を用いた.試験温度は室温(RT),100°C,200°C,300°Cに設定した.設定温度に到達後10分保持し,初期ひずみ速度0.001 /sにて単軸引張試験を実施した. 真応力-対数ひずみ関係におけるひずみは,室温から200°C の条件ではビデオ式伸び計,300°Cの条件では作動トランス式伸び計(いずれも上記万能試験機付属品)を用いて測定した.r値-対数塑性ひずみ関係におけるひずみは,試験片へ任意の引張ひずみを加えて除荷した後に試験機から取り外し,デジタルカメラ(SONY NEX-7)で撮影した変形前後の画像について,デジタル画像相関法(以下,DIC)を用いて解析した. ■ ■r値の算出 ■デジタルカメラによって撮影された変形前の試験片画像を基準に,試験片平行部内に設定したRD方向50 mm及びTD方向18 mmの長方形内における40×14分割の*山形大学 大学院理工学研究科 機械システム工学分野 教授山形大学大学院理工学研究科■機械システム工学分野 (平成24年度一般研究開発助成 AF-2012013) - 52 -M. Kuroda解析システムの開発とその解析精度の検証 結晶塑性理論を有効利用したマグネシウム系合金用塑性加工解析システムの開発とその解析精度の検証黒田■充紀■■小泉■隆行 黒田 充紀* 小泉 隆行結晶塑性理論を有効利用したマグネシウム系合金用塑性加工 Review
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