図10(e),(f)は走査速度を3倍にした造形物Eである.造形物Aの粒子径約100~200 mに対して,造形物Eの粒子径は約80mと小さなクラスタが多い.走査速度が増加し,粉末にレーザが照射される時間が短くなったことが原因である. ■ 図10(i),(j)のレーザ出力30.1Wの造形物Jでは,約200~300 mに肥大したクラスタがレーザ走査方向に連続的に連なっている.レーザ出力を増加させると積層深さ方向■ 図11■試験荷重 5 kNと10 kNの時の等価ヤング率 図11には等価ヤング率とエネルギー密度の関係を,2つの圧縮試験荷重について示した.これより,等価ヤング率はエネルギー密度,①25.9~77.7■J/mm3,②102~218 J/mm3,③250~344 J/mm3の3つに分類できる. 図12■造形物 E の圧縮試験前後の断面組織 図10(c),(d)に走査ピッチを3倍にした造形物Cを示す.走査ピッチが大きくなると,粒子径の小さいクラスタが増図10(g),(h)に示す積層厚さを3倍にした造形物Gは,クラスタの粒子径が大きく,積層方向に焼結が繋がってい加し,クラスタ間のすきまも増加することが分かる.走査ピッチ105 mの造形物Cでは直接レーザ照射されない部分が生じることから,粉末溶融があまり進行しないためにクラスタの粒子径が小さくなったと考えられる. る様子が確認できる.積層厚さを増加させたことで,一層分の粉末量が増加する.そのため,積層深さ方向の溶融が進み,多くの粉末が凝集されたことでクラスタの粒子径が大きくなったと考えられる.その一方で,大きな空隙も現れている.これは,粉末の供給量が決まっていることが原因ではないかと考えている. これまで比較した造形物C, E, Gは図6のエネルギー密度が最も低い25.9 J/mm3と同一の条件のものである.エネルギー密度は同一の値であるが,パラメータによって充填率が異なることが分かる.したがって,式(1)は修正する余地があると考えられる. とレーザ走査方向共に溶融範囲が拡大する.それにより,クラスタ同士の焼結融合が活発になることで連続的な焼結が進み,緻密な構造となっている. 袴田らはポーラス金属の研究を行い,圧縮強度や降伏応力は相対密度(充填率)に依存するとしている11).しかし,図9より本研究で作製した造形物の充填率と等価ヤング率には強い相関は見られなかった.袴田らのスペーサー法により作製されたポーラス金属はその製法から空隙が独立しているのに対して,本研究で作製した造形物は空隙が不規則に連なっている.両者のこのような構造上の違いが変形特性に現れたものと考えられる. エネルギー密度が①の領域で作製された造形物は,レーザ出力が6.8Wで共通であり,造形物Aの充填率が最も高い.図12には造形物Eの圧縮前後の垂直断面画像と二値化画像(白い部分がクラスタで,黒い部分は空隙)を示す.これより,圧縮前は充填率59.2%と空隙が多いが,クラスタのネック部強度が弱いため,圧縮によってネック部とエネルギー密度の関係 (a) 試験荷重 5 kN (b) 試験荷重 10 kN 4.圧縮荷重と等価ヤング率の関係■が塑性変形し,緻密化(充填率75.6%)されていることが分かる.したがって,エネルギー密度①における等価ヤング率の上昇は,圧縮による造形物内部の緻密化によると考えられる.図11(a)において造形物A以下のエネルギー密度ではヤング率が10 GPa以下であるのに対して,圧縮荷重10kNを加えた図11(b)において40 GPaに上昇したのは,この機構による. エネルギー密度②の領域で作製された造形物は,エネルギー密度を増加させたことで領域①に比べてクラスタとネックが成長している.主にネック部の強度が増加したことで10kNの圧縮ではクラスタの緻密化がそれほど進まないと考えられる.図8の圧縮ひずみの圧縮加重による変- 92 -
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