FORM TECH REVIEWvol28
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パルス波形を構成する最小時間単位を1ステップ0.4msとし,6ステップでパルス幅2.4msの1つのパルスを構成している.図7の左の3種類のパルス波形は,それぞれ5ステップ目,3ステップ目,2ステップ目に最大ピーク出力1.2kWが存在するパルス波形とし,最大ピークの前後は出力がなだらかに増加,減少するように同一のパルスエネルギーで階段状のパルス波形とした.これら3つのパルス波形は,後半,中盤,前半にピーク出力をもつことから,図中ではそれぞれ“Later P.p.”,“Middle P.p.”,“Early P.p.”との名称で表示し識別している.さらに,Early P.p.のパルス波形を基にパルス幅を3.2msおよび4.0msとし,いずれもパルス波形Early P.p.と同様に最大ピーク出力が2ステップ目に位置するパルス波形とした.パルスエネルギーおよび最大ピーク出力はこれまでと同様にそれぞれ2J/pulseおよび1.2kWと設定した.なお,これら新たに作成したパルス波形はそれぞれ“Early P.p.τ3.2”,“Early P.p. τ4.0”との名称で表記している.加えて,パルス幅4.0ms,パルスエネルギー2J/pulseでピーク出力を0.8kWとしたパルス波形Early P.p.0.8 τ4.0として比較のために用いた.図7はパルスエネルギーを2.0J/Pと統一して,図下部に示すパルス波形を用いた時の試料表面状態と溶け込み状態を示している.表面状態に関してはパルス幅が長くなるにつれて表面の状態が安定する傾向が得られた.また,溶接欠陥においても,発生量,その大きさ共にパルス幅が長くなるにつれて減少する傾向が見られた.溶融領域内部でポロシティとなりうる気泡の発生後,密度差から気泡は外部へ排気される様に上昇する.しかし,レーザ光照射が終了し,冷却が急激に進行すると気泡が外部に放出される前に凝固が始まり,内部に残留する.そこで,パルス幅を長くすると,溶融状態が長く続き,気泡の排出が促されることから溶接欠陥の低減に繋がったと考えられる.図7波長532nmを用いた銅のレーザ溶接実験においてパルス波形が溶け込み状態に及ぼす影響図8は図7で用いたパルス波形が溶け込み深さに及ぼす影響を示している.溶け込み深さのバラつきは最大ピーク出力のステップ位置に強い相関を示し,溶け込み深さのバラつきを低減するためには,パルス波形における最大ピーク出力をパルスの前半に位置させることが重要であった.以上のように,前半に最大ピークがあり照射終了までなだらかに低下するパルス波形で,かつパルス幅を長くすることによってポロシティなどの溶接欠陥や溶込み深さのバラツキを低減した良好な加工結果が得られることが確認できた.図8波長532nmを用いた銅のレーザ溶接実験においてパルス波形が溶け込み深さに及ぼす影響図9に,Nd:YAGレーザの第二高調波のパルス波形を変化させた場合の光吸収率を示す.パルス幅2.4msでピーク出力位置が後半,中間,前半と異なる3種と,ピーク出力位置は前半で,パルス幅が3.2msと4.0msの2種,合計5種のパルス波形を用いた.実験装置は図1に示す光ファイバ伝送方式を使用した.図より,非溶融の状態における光吸収率はパルス波形に依存せずほぼ一定であることがわかる.非溶融の状態とは,すなわちレーザ光を照射した際に試料の温度がほとんど変化しない状態であり,このような照射結果を得るために照射するレーザ光の出力は非常に低い.したがって,いずれのパルス波形においても試料の温度がほとんど上昇せず,単純に銅板上に微弱な光を当てて吸収率を測定している状態になっていたため,パルス波形による違いが現れなかったと考えられる.逆に,非溶融の状態において吸収率の測定結果にパルス波形の影響が現れなかったことは,パルス波形に起因する誤差の少ない正確な測定結果が得られていると考えられる.これに対して,熱伝導型の場合はパルス波形による違いが明確に現れており,パルス幅が同一のLater P.p.,Middle P.p.,Early P.p.では,ほぼ同一の光吸収率を示しているが,パルス幅が長くなる3.2ms,4.0msではパルス幅が長くなるにつれて徐々に光吸収率が増加している.図6で示した試料温度による光吸収率の変化の測定結果から,波長532nmでキーホールをともなわない加工を行った場合,試料温度が高いほど吸収率が低くなる傾向が明ら- 69 -

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