図4は銅にNd:YAGレーザの第二高調波を照射した際における溶け込み深さと光吸収率との関係を示したものである.図5は,そのレーザ光照射表面と断面の一例である.非溶融と熱伝導型の試料の状態においては実験装置として図1を,キーホール型では図2に示すものを使用した.キーホール型の溶融形態においては,レーザ光がキー3.レーザ光波長が光吸収率に及ぼす影響4.溶け込み深さと試料温度が光吸収率に及ぼす影響長を用いた実験においても,シールドガスとしてN2を用いており,積分球内はN2で満たされた状態においてレーザ光照射実験を行った.図2波長532nmレーザによる直射照射システムと積分球による反射率測定方法試料に対してレーザ光を照射することによって発生する現象は,①照射レーザ強度が低く加工(溶融)現象が発生しない場合,②照射レーザ強度が中程度で熱伝導型溶接となる場合,③照射レーザ強度が高くキーホール型溶接となる場合の3つに大別することができる.この3つの現象はそれぞれでレーザ光照射部の温度や形状に違いがあることから,レーザ光吸収率にも変化が現れると考えられる.したがって,試料の光吸収率の測定はこの3つの現象それぞれにおいて実施した.具体的には,まずレーザ光の照射出力を変更して試料に照射することによって,非溶融,熱伝導型,キーホール型の各々の加工状態となる出力を確認し,次にそれぞれの出力によって積分球内で加工を行い,試料の光吸収率を測定した.なお,吸収率の測定は各条件で10回ずつ行いその平均値を算出した.試料に対してパルスNd:YAGレーザの基本波およびパルスグリーンNd:YAGレーザを照射して測定した試料の光吸収率を図3示す.図より,波長1064nmの基本波と波長532nmの第二高調波で吸収率が大きく異なっていることが確認できる.さらに,いずれの波長も加工状態によって吸収率に変化が生じているが,この変化の傾向も波長によって異なっていることがわかる.基本波の光吸収率は,非溶融の状態において9.3%と最も低い値を示しており,熱伝導型,キーホール型の順に上昇している.すなわち,レーザ光の照射出力が上昇し,溶込み深さが増加するほど光吸収率が向上することを示している.キーホール型の加工となる場合,試料にレーザ光を照射することで発生する金属蒸気の圧力によって溶融部の形状が変化し,中心付近に深い凹形状のキーホールが形成される.これにより,キーホールの内壁で吸収されず反射されたレーザ光はさらにキーホールの内部へ導光され,再び試料へ照射されるため熱伝導型に比べて吸収率が向上したと考えられる.熱伝導型の加工の場合,レーザ光の照射により試料表面は溶融するがその形状に大きな変化は現れないため,キーホールのように光吸収率を向上させる効果は生じないと考えられる.しかしながら,光吸収率は非溶融の状態と比較して大幅に向上している.このことから,銅に対する基本波の光吸収率は試料温度の上昇とともに,あるいは溶融にともなって増加する可能性が高いと考えられる.一方,波長532nmの第二高調波の光吸収率は,非溶融の状態において基本波の6倍以上となる約58%となっており,基本波に比べ高い光吸収率を示している.しかし,基本波の場合と異なり照射するレーザ光の強度に対する相関性は見られず,熱伝導型における光吸収率は約50%と非溶融の場合に比べ低い値となっていた.レーザ光の強度をさらに上げてキーホール型の加工形態となった場合,光吸収率はやや向上し約56%となっていた.キーホールが発生した場合はレーザ光がキーホール内壁で多重反射されることにより光吸収率が向上する効果が生じる.第二高調波においても同様の現象が発生した結果,キーホール型加工の光吸収率が非溶融や熱伝導型に比べ高い値を示したと考えられる.一方,熱伝導型加工の光吸収率が非溶融に比べ低下していることから,銅に対する第二高調波の光吸収率は試料温度の上昇,溶融開始にともなって生ずる試料表面の変化やプラズマ等の諸現象が影響していると考えられる.図3 銅のレーザ溶接実験におけるプロセス形態と光吸収率ホール内壁で多重反射されることにより光吸収率が向上する効果が知られている6).これと同様に,キーホール型溶接では溶け込み深さが増すほど光吸収率は上昇したと- 67 -
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