FORM TECH REVIEWvol28
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図1流体潤滑機構の模式図削除しないでください塑性加工は,信頼性の高い素形材や強度部品を経済的に量産できる加工方法である.製品の寸法精度も,冷間成形では後工程の切削仕上げが不要な公差範囲に収まり,ネットシェイ化が進んでいる.熱間成形では材料歩留まり向上だけでなく,後工程の切削代削減も追求され,こちらではニアネットシェイプ化が目標とされている.ところが自動車の軽量化が必要な時代になり,従来よりも高強度な材料の使用,さらに小型で角丸味半径の小さな形状の成形品が採用されるようになってきた.これらの製品についても,従来品と同じような高い精度と型寿命を保証し,コスト増も抑制することは難しい課題である.さらに最近では,生産工程における環境負荷低減に向けた動きも活発である.その一環として,省エネルギ,省資源,廃棄物削減に関連する技術の開発と普及が急速に進んでいる.この傾向に潤滑技術も無縁ではなく,高性能化と環境負荷低減の両立に向けた開発がグローバルに求められる時代になってきた.その上軽量化のためには,変形しにくい強い材料が採用されるので,まず熱間鍛造で荒加工した後,冷間鍛造やしごき加工で仕上げることも増えている.そのせいか,熱間鍛造加工や冷間しごき加工の潤滑は,企業の規模にかかわらず,多くの加工技術者にとって関心のある課題である.これらの加工では,圧延や引抜きに比べて,安定な潤滑状態を作りにくい.しかも現象は複雑であり,局所的なこともあり,現象の理解も他の塑性加工に比べても不明なことが多い.これらを天田財団の助成テーマ2006年度1)(冷間しごき潤滑に関連)および2015年度2)(熱間鍛造潤滑に関連)としても取り組んだ.本稿では,それらの内容に沿って,それぞれの取組を紹介する. ■■冷間成形の潤滑基礎材料の降伏応力Yに対して,しごき加工の型面圧は3Y,鍛造加工では5Yに達することは特別なことではない.このような高い面圧に対しても,その負荷を潤滑膜が支えるおかげで工具と材料は直接接触することなく,滑ることができる.もし圧力が局部的に上がり,あるいは潤滑剤の量が不足すれば,潤滑膜は破断し,型と材料は直接接触する.写真位置1.まえがき2.冷間しごき加工用の潤滑油開発■),■■~■■)*名古屋工業大学 つくり領域 教授型コーティングがなければ,少量生産数でも材料が型に移着し(焼付き),材料や型に深い擦過傷(かじり)が生じやすい.良好な潤滑の際には型と材料との間に油膜が形成される.そのメカニズムは図1(a)くさび効果,図1(b)スクイーズ効果と呼ばれている.流体力学と塑性力学との連立した理論によって,これらの原理3)が説明されている.ff■■スクイーズ効果:工具が材料に接近してくる時,その隙間に残っている油が圧縮され,その内圧は材料の降伏応力並みに増加し,潤滑膜が形成される.実生産の塑性加工では,面圧も高く,滑り距離も長いため,摩擦発熱も大きい.変形の大きな鍛造では,成形中の塑性変形発熱も潤滑面を経て型へ伝わっていく.潤滑膜の温度が上がれば,潤滑油粘度は下がり,油膜は薄くなり,破断しやすくなる.これらの温度上昇は潤滑に不利な条件とも単純には言えない.たとえば,潤滑油に含まれる極圧添加剤(圧力が高くて反応するというより,温度が上がって化学反応す(a) くさび効果:材料や型に付着した油が狭い隙間にくさびを打ち込むように押し込まれ,油の圧力は材料の降伏応力並みに上昇し,潤滑膜が形成される.工具入口低圧潤滑油変形前材料材料移動変形後材料工具下降低圧潤滑油が絞り出される方向高圧変形前の材料高圧潤滑油が絞り出される方向- 10 -K. Kitamura厳しい条件の塑性加工における潤滑技術開発北村 憲彦*北村憲彦厳しい条件の塑性加工における潤滑技術開発特別講演

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