3. 実験成果及び考察ここで,vはステージの走査速度(mm/s),fはパルスの繰り返し周波数(Hz),dはビームのスポット径(mm)である.ビームスポット径dが0.3mmとすると,焦点位置でのパルスのオーバーラップ率Rは30~99%となる.これまでの研究では,形成した電極膜と電解質基板との密着性が得られず,基板から剥離しやすいという課題があった.そのため,レーザ出力,パルス幅,走査速度のほか,ビームのフルエンスの調整とアブレーション等の回避のため,レーザの焦点位置を基板内部に0~16 mm移動させた(デフォーカス).デフォーカスを行うことで,スポット径が拡大する.例えば14~16 mmのデフォーカスでスポット径は5倍程度に拡大し,レーザのフルエンスはもとの3~4%程度になると見積もられる.密着性や構造解析,電気特性の評価などに必要となる,大面積(5 mm×5 mm~20 mm×20 mm)の電極膜(ハーフセル)は,まずメンディングテープ(厚さ50μm)の中央を~20 mm角に切り抜いたマスクを8-YSZ基板表面に設置して塗布膜を形成し,レーザ光をY方向に走査した後,ピッチX=25~100μmで連続的に走査することで形成した.このとき,レーザ光を同一パスで2回照射する形成条件について検討した.一方の比較対象となる炉焼成サンプルは,仮乾燥後の電極膜を電気炉で焼成(温度1200℃,7時間)することで作製した.焼結膜の評価として,まず形成した焼結膜と電解質基板との密着性は,膜の簡易スクラッチ試験や,メンディングテープによるピール試験で評価した.剥離率の算出は,ピール試験前後の質量を比較して単位面積あたりの減少分で評価した.レーザ照射後の電極膜表面をエタノールで洗浄した後,光学顕微鏡/レーザ顕微鏡(株式会社キーエンス製,VK-8700)や,走査型電子顕微鏡(SEM,株式会社キーエンス製,VE-9800)を用いて観察した.また得られたSEM像の画像解析を行うことで気孔面積率を測定した.このとき気孔面積率は,作業者がアンダーカットレベルを決定するため,数%の誤差を含んでいる.また電極膜の膜厚や電極膜と基板材料の分布を評価するため,集束イオンビームによる断面加工ならびに2次イオン顕微鏡(FIB-SIM,日立ハイテクノロジー製,FB-2100)による観察のほか,エネルギ分散型X線(EDX,堀場製作所製,EMAX ENERGY EX-350)分析を行った.またLSM電極膜を形成したのち,超音波洗浄で電極膜を除去し,電解質基板表面の残留粒子やクレータの有無を観察し,観察された物質のEDX元素分析を実施した.GTLS法や炉焼成法で焼結したLSM電極膜の結晶構造は,大面積に形成したLSM電極膜を,X線回析装置(XRD,株式会社リガク,SmartLabSE)で分析した.さらに8-YSZ基板上に形成したLSM電極膜のハーフセルの電気特性を,交流インピーダンス測定法で測定した.温度範囲800~1000℃,周波数範囲0.1 Hz~100 kHzの条件とし,炉焼成サンプルと比較した.3.1照射レーザのパルス幅制御による多孔質膜形成造孔材を用いないLSMグリーンペーストの焼結に関して,レーザのパルス幅を0.6~2.0 msと変化させて多孔質膜の形成を行った.スペーサー膜厚50μm,乾燥温度100℃の条件で,8-YSZ基板上に作製したLSMやNiO/YSZのグリーンテープ(膜厚約45μm)に,エネルギ約0.45 mJのパルスを,走査速度16.7 mm/s(500 mm/min)で集光照射し,焼結膜表面の様子を観察した.図5に,それぞれの条件で作製した電極膜表面のSEM像を,図6にパルス幅と気孔面積率の関係を示す.LSM焼結膜の場合は,ほぼすべてのレーザ条件において多孔質膜が形成された.パルス幅が1.6 ms以上の条件では,凝集体が確認され,パルス幅を1.4 ms以下の場合には凝集体図5図6照射するレーザのパルス幅と焼結膜の8-YSZ基板上に形成した焼結膜表面のSEM像:(a-c)NiO/8-YSZ電極膜,(d-f)LSM電極膜気孔面積率の関係- 101 -
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