は(a)の矢印で示す部分に相当.集光点の間に熱が集中することで炭素繊維の周囲の樹脂が蒸発し,細切れになった炭素繊維は固体のまま飛散していく.図6(c)の場合は,間隔が広めの2重線加工を施して炭素繊維を孤立させたところにデフォーカスした低強度かつ大きめの集光スポットでレーザー光を照射する,或いはパルス幅が長めで低ピークパワーのセカンドビームを照射すると,容易に樹脂が蒸発し細切れになった炭素繊維は固体のまま飛散していく.3.3.2複合パルス加工図7に示す手法(図6(c) に相当)でCFRPの溝加工を試みた結果を紹介する.溝の端部を超短パルスレーザーで加工し(図7(a)),次いで溝に残る部分へ長パルスレーザーを照射し(図7(b))除去することにより,高品質かつ高効率に溝を形成(図7(c))することが可能となる.試料として炭素繊維が一方向に並んだCFRPを用いた実験結果を図8に示す.パルス幅200psのレーザー(波長800nm,出力0.4W,繰り返し1kHz)を用いて100µm間隔で深さ約100µmの溝を4本形成し,溝と溝の間に残った部分へパルス幅200nsのレーザー(波長1064nm,出力13W,繰り返し25kHz)を100mm/sの掃引速度で照射し,幅約150µmの溝を形成した。図8(a)の4本の溝はレーザー光を50往復掃引して形成したが,200nsのレーザーを1回掃引するだけで図8(b)のような溝加工が実現した.図8(a)の段階で炭素繊維が細切れになっているために,低強度の200nsレーザーでも100µm幅の溝を容易に形成することができた.図9に図8(b)の加工試料を表面から見た写真(a)(図中に示す矢印が幅150µmの溝に相当)と200nsレーザーだけでシングルスキャンで溝加工した試料の写真(b)を示す.溝両端部をあらかじめ加工していない場合(図9(b))は,溝周囲に炭素繊維が露出した熱影響部が観察され,溝幅も狭い.図9(a)では,炭素繊維が細切れになっているところへ200nsレーザーを照射しているため,横方向への熱伝導も抑制され“孤立した”炭素繊維が効率よく除去されたものと考えられる.この時に樹脂内部に存在した炭素繊維はアブレーションされずに固体のまま吹き飛んだものと推測される.図8,図9に示した加工試料では,炭素繊維と加工溝の方向が互いに直交しており、炭素繊維を細切れにする効果が顕著に現れた.ところが,加工溝方向を炭素繊維に対して平行にすると様子が一変する.図10に図7と同じ手法で炭素繊維と平行に溝加工したCFRPの断面(図10(a))及び表面(図10(b))から観察した光学顕微鏡写真を示す.図10 (a)に示す矢印部に200nsレーザーを照射した.図10 (b)内の矢印で示す部分は図9(a)とは異なり,樹脂だけが蒸発し炭素繊維が露出していることが分かる.図8(b)と図10 (a)を比較すると,樹脂が蒸発した量が格段に異なる.これは,CFRPのレーザー加工において炭素繊維による熱伝導が重要な役割を果たすことを示している.図7複合パルス加工の手順:(a) 100µm間隔で幅100µm程度の細溝を超短パルスレーザーで加工し,(b)溝間に残る部分へ長パルスレーザーを照射すると,図8複合パルス加工例:(a)パルス幅200psのレーザーで細溝を形成し,(b) その一部にパルス幅200nsのレーザーを照射することで幅150µmの溝を形成.図9図8(b)の加工試料を表面から見た写真(a)とパルス幅200nsパルスレーザーだけで溝加工(シングルスキャン)した試料の写真(b).図中に示す矢印が幅150µmの溝に相当.図10図7と同じ手法で,炭素繊維と平行に溝加工した試料の(a) 断面および(b) 表面.パルス幅200nsのレーザーを(a)の矢印で示す部分に照射.(b)の矢印(c) 高効率で高品質な溝が形成される.- 93 -
元のページ ../index.html#95