図2 残留応力による接触界面での空孔拡散の模式図表1 レーザ照射条件図3 フェムト秒レーザ照射によって銅棒(a)およびexpPΩkTµ∆exp=−kT積の増加部分には,大きな引張応力が生じることになる8).ここで,この接触した2物体間に金属結合が形成されたと仮定すると,接合界面には,中央部で圧縮,両端部で引張の残留応力分布が形成されることになる. 一方,筆者らは接合界面に応力分布が存在する場合,応力の勾配に起因した空孔拡散とそれにともなう応力変動の相互作用によって,残留応力分布が緩和され,最終的に接合強度が向上することを明らかにした3).その応力緩和機構は概ね以下の通りである.物体内のある場所における空孔濃度Cと過剰化学ポテンシャル∆µ,およびその場所に加わる圧力Pとの間には次式が成り立つ.(6)ここで,C0:平衡空孔濃度,Ω:原子空孔体積,k:ボルツマン定数,T:絶対温度である.式(6)より,圧縮応力の働く界面の中央部では空孔濃度が低く,引張応力の働く界面端部では空孔濃度が高い状態が生まれる(図2).この空孔濃度の勾配を駆動力として,界面に沿った原子の拡散が生じ,応力分布が時間とともに変化する.空孔拡散に起因した応力緩和現象に必要な時間は,温度が低下するほど指数関数的に増加することが知られている.したがって,常温における短時間での応力緩和は困難であると予想されるが,被接合材表面に微細な凹凸を有する場合,空孔の拡散距離が短くなることから,従来に比べて急速な応力緩和とそれに伴う接合強度の上昇が期待できる. 本研究においては,表面にサブミクロンサイズのLIPSSを形成し,かつイオンビーム照射によって表面を活性化した被接合材同士を接合することで,凝着エネルギーの効果による接合面積の拡大と,拡散距離の低減による残留応力緩和により接合強度の向上を図ることができものと予想される.レーザ光源としてパルス幅150 fs,波長775 nmのフェムト秒レーザ(Clark-MXR社製CPA-2110i)を使用し,試料表面に垂直にレーザ光を照射しながら試料ステージを3.実験方法 3.1 接合面へのLIPSSの形成 移動させることにより,接合面全面にLIPSSを形成した.また,供試試料として銅箔(15 mm × 15 mm × 0.010 mm)と銅棒(φ10 mm ×6.6 mm)を用いた.表1にレーザ照射条件,ステージ走査条件を示す.適切なレーザ照射条件として,ステージスキャン速度:4 mm/s,スキャンピッチ:30 µm,レーザエネルギー密度:0.8 J/cm2の条件を選択し,銅棒,銅箔の被接合面全面にLIPSSを形成した.形成したLIPSSのSEM写真を図3に,AFMによる計測結果を図4に示す.同図より形成したLIPSSは周期が約700 nm,高さが約150 nmであることが分かった.3.2 常温接合方法 まず,アルゴンイオンビーム照射による被接合面の活性化と,その後の接合を1つの容器内で実施可能な真空装置の製作を行った.製作した接合用真空装置の概略図を図5に示す.同図に示すように,本装置は,真空排気系,試料洗浄用アルゴンイオン銃(PSP社製電子振動型イオン源ISIS300),接合ツール押込み機構,接合用治具などから構銅箔(b)に形成されたLIPSSのSEM写真.CC−=0C0- 80 -
元のページ ../index.html#82