図9に予備排気なし・Arガス流量1 L/minで作製した試料のAg–Cu–Tiろう材表層部の断面観察・面分析結果を示す.この試料を作製した際の加熱開始時の残留酸素濃度は33 ppmである.a)はSEM像,b),c), e)及びf)はそれぞれ,O, Ag, TiおよびCuの各元素のEPMA元素分析結果である.d)に試料の切断部位を示す.なお,a)の上部の冷間硬化樹脂とろう材の間には,硬化時に発生した収縮によりすき間が発生してお図10に予備排気なし・Arガス流量10 L/minで作製した図8に,作製試料の外観とAr流量/予備排気有無の影響比較を示す.いずれの試料もArガスフロー開始後180秒後に加熱を開始している.a)に示す予備排気なし・Ar流量1 L/minの場合,ろう材のフィレット部分が酸化していることが確認できた.一方,b)~d)に示す予備排気なし・Ar流量5 L/min, 10 L/minおよび予備排気あり・5 L/minの場合17)には,接合界面からはみ出したろう材表面に明確な酸化は見られなかった.したがって,今回の実験結果におけるレーザブレージング中のTiの酸化閾値は10 ppm ~30 ppmの間に存在すると推定される.これらの結果は,図7の酸素濃度測定結果と一致する. 図9 Arガス流量1 L/min・予備排気なし の条件にて作製した試料のAg–Cu–Tiろう材表層部断面観察・面分析結果 たh–BN/Ag–Cu–Tiろう材界面の断面観察・面分析結果 図10 Arガス流量10 L/min・予備排気なし の条件で作製し図7および8の結果を踏まえ,ろう付試料の断面観察を行い,ろう材表層部および内部のTi酸化の有無について h–BN 図8 作製試料の外観とAr流量/予備排気有無の影響比較 a) 1 L/min WC–Co ろう付条件として不適 る,装置の内面積や試料の密度(セラミックスの開気孔からの残留酸素の放出)等が影響するものと考えられる. 筆者らのこれまでの研究16, 17)において加熱を開始した180秒付近で比較した場合,Arガス流量1 L/minの場合の酸素濃度は,33 ppm以上となった.Arガス流量を5 L/minまで増加させた条件では10 ppmとなり,さらに10 L/minとした場合は3.8 ppmまで低減した.この値は,真空排気後Arガス流量5 L/minとした比較条件における値(1.8 ppm)に近い酸素濃度となった. さらにこれらの結果は,Al製ラジエータのろう付等に多用されるNocolokろう付に用いられる雰囲気中の残留酸素濃度の上限(20~25 ppm)19, 20)とも良い一致を示す.酸化物の標準生成自由エネルギー・温度図9)で比較すると,室温~ろう付温度付近でのAlと酸素との反応性はTiよりも高い.Nocolokろう付はN2雰囲気中で実施されており,本研究におけるろう付温度や加熱時間等はNocolokろう付と異なるものの,今回の実験結果におけるレーザブレージング中のTiの酸化挙動と残留酸素濃度上限との相関は,同様の傾向を示すことが明らかとなった. b) 5 L/min h–BN WC–Co d) 5 L/min h–BN WC–Co c) 10 L/min h–BN WC–Co a) SEM Image Ag–Cu–Ti ろう材 d) 切断部位 a) SEM Image h–BN Ag–Cu–Ti ろう材 d) Ti 良好なろう付条件 予備排気なし ろう材表面が酸化 予備排気なし 予備排気あり 予備排気なし ろう材表面は酸化せず 冷間硬化樹脂 冷間硬化樹脂 2mm 元素分析を行った. り,ろう材表層部分には冷間硬化樹脂は付着していない.ろう材表面には,b)に示すように酸素が存在し,その分布はd)に示すTiと重なっていることが分かる.上述の理由により,ろう材表層から検出される酸素は,冷間硬化樹脂由来のものではないと考えられる.したがって,ろう材表層に厚さ2 μm程度のTiの酸化物が生成していることが分かった.また,Tiはろう材表層のみに存在しており,ろう材母相中にTiは見られない.このことから,溶融したろう材に含まれるTiの酸化は短時間で進行し,未反応のTiはほとんど存在しないものと推察される. b) O 2μm e) Ti b) O 100μm e) N c) Ag f) Cu (f) Cu c) Ag f) Cu (f) Cu - 76 -
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