図4 縦単一モードファイバMOPAレーザの構想図 図5 FBG加工装置(参考文献[3]より引用) 図3 Er:ZBLANガラスの蛍光・吸収スペクトル 3.単一波長中赤外ファイバレーザの開発 Er添加フッ化物ファイバレーザは中赤外波長帯の高平均出力パルス光源として有望である.グラフェンは、ディZrF4系のガラス材料である.石英ガラスの最大フォノンエネルギーがおよそ1000 cm–1であるのに対し,ZBLANガラスではおよそ500 cm–1と小さい.このため,Erなどの希土類を添加した際,石英では多フォノン緩和により非輻射損失となる多くの遷移が,ZBLANガラスでは発光(又は誘導放出)を示すようになる. ZBLANガラスに添加されたEr3+イオンの遷移図を図2に示す.4I9/2の蛍光寿命は6.9 msと長いため,975 nmの励起光により4I9/2–4I13/2間に容易に反転分布を得ることができ,2.8 μmのレーザ発振が得られる.励起波長が975 nmであるため,高出力Ybファイバレーザ励起用として高性能・低価格化が進んでいる半導体レーザをそのまま利用することができる.しかし,4I13/2は上準位(4I9/2)より長い9.0 msの蛍光寿命を有するため,4I9/2←4I13/2間の励起状態吸収が生じ,レーザ効率を低下させる要因となる.これを回避するため,Erを高濃度添加することによりEr–Er間のエネルギー移動アップコンバージョン(ETU)を促進し,4I13/2の占有率を下げる方法が用いられる.ErF3の添加量をおよそ2~10 mol%とすることにより,最も高い効率が得られることが示されている[1].図3に4I9/2→4I13/2の蛍光スペクトルおよび4I9/2←4I13/2の吸収スペクトルを示す.蛍光・吸収スペクトルともにおよそ2600 nmから2950 nmにわたって広がっており,波長可変レーザや超短パルスレーザに適した特性を有している.放出断面積は最大で約5×10–21 cm2とYb添加石英ファイバと同等の値であるが,上寿命が長いため高い利得が得られる. (参考文献[2]より引用) ファイバレーザでは,ファイバ導波路による空間モード選択性により比較的容易に横単一モード発振を得ることができる.しかし,一般に高出力を得るためには長いファイバ(共振器)が必要となるため,縦モード選択は難しくなる.そのため,縦横単一モードの高出力光を得るには,低出力の単一モード種光源をファイバ増幅器により増幅するMOPA(Master Oscillator Power Amplifier)方式レーザが適している.縦横単一モードファイバMOPAとして,DBR(Distributed Bragg Reflector)構造の短いファイバ発振器とファイバ増幅器からなる構成(図4)を想定している.周波数狭帯域化のためのDBR構造はFBGをファイバ中に書き込むことにより実現する. すなわち,高出力フェムト秒レーザをガラス中に集光すると集光点付近に永久的な屈折率変化を生じることが知られており,この原理を応用してフッ化物ガラスファイバ中にFBGを書き込むことができる(図5).Yb:KGWフェムト秒レーザと±50 nmの繰り返し位置決め精度を有する高精度ステージを用いたレーザ微細加工装置により,ファイバーコアに周期約1.9 μmのFBGを書き込むことに成功した.このファイバを用いたErドープファイバレーザ発振器を構築し,波長975 nmの半導体レーザで励起したところ,波長約2800 nmで発振が得られた.レーザ出力のスペクトル線幅は0.3 nm以下と狭く,FBGの高い波長選択性が確認できた.今後,DBR構造レーザを構成することにより,単一縦モード発振が可能になる見込みである. 4.パルス発振中赤外ファイバレーザの開発 4.1 グラフェンを用いたQスイッチ発振 ラックコーンと呼ばれる特異なエネルギーバンド構造を- 61 -
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